第三十七章 主人公VSスライム その4
「Think, goddamn it, think!」
アラトは考える。
(僕はこんなに辛いのに、あいつは本当に辛くないのか?
あいつだって、生物であることに違いはない。お腹がすかないのか? 喉が渇かないのか? 動いている限り、お腹がすかないわけがない。それと脱水症状。絶対、水分補給は必要なはず……
百獣の王、ライオンだって水がなかったら死ぬ。
あいつだって、この何も存在しない無機質な闘技場で永遠に生きていけるなら、何かを捕食する必要はない。
つまり捕食することが行動原理なら、逆に言えば、捕食しなければ生存できないはず。
理屈として絶対間違いない!)
なるほど、そうやって考察してみると、アメスライバの動きは遅くなっているように見える。
惑星破壊キャノン砲をヒットさせ、ボディが半分に減り移動速度が上がった。それからおよそ22時間経過し、今、動きが鈍化しているのがはっきりわかる。
「これだ……。起死回生の狙い目。奴の弱点」
対戦時間の上限は100時間。まるまる4日間と4時間。決着がつかなければ、もっと狭い会場に場所を変え、サドンデス。
そのサドンデス会場に移動したら即アウト確定。狭い場所だと逃げ場がなく敵に捕獲されるからだ。絶対に移動前に決着しなければならない。
「勝つための条件を並べて考えてみよう」
アラトは、頭の中で戦略立案の条件を並べてみる。
テニスのシングルス戦で、試合を進めながら実戦中に戦略を考案する行為はやり慣れている。アラトはテニスをやり続けた恩恵を初めて実感し、機会を与えてくれた両親に感謝した。
・対戦時間上限100時間以内に決着しなければいけない。残り3日間と4時間。
・22時間の時間経過でアメスライバの動きは鈍化した。
・アメスライバの動きがより緩慢になれば、惑星破壊キャノン砲の直撃が狙える。
・アメスライバのボディが小さくなると、移動速度が上がってしまう。
・惑星破壊キャノン砲をヒットさせる場合、アメスライバのボディを一度に余すことなく消滅させなければいけない。一発勝負。
・こちらには、超高性能栄養ドリンク剤が残り2本。1本当たり、24時間分のエナジー補給ができるので、あと2日分ある。
・栄養ドリンク剤を飲み干した後は、残り28時間の忍耐が必要。
・最大の懸念は、筋力確保。パワードジャケットのアシスト機能の恩恵はかなり大きいが、飛行ジェットシューズのバランス維持で、結構全身の筋力を消耗する。
「ヨシ! だいたいまとまった。戦略の方向性は見えてきた!」
時間はたっぷり残されているので、アラトは2時間ほど戦略を練った。
目標は、一発でアメスライバを瞬殺。
策は4つ。
1つ目の策。
戦闘継続時間が100時間経過で一時中断されることを利用し、安全策を敢行。あくまで想定した安全策だが。
100時間に到達した時点で、両者揃ってサドンデス会場へと移動することになる。つまり、運営は必ず両者の攻撃を中断させなければならない。
アメスライバをどのように制御するのかわからないが、この試合に出場させている限り、理屈として制御は可能なのだ。
時間制限ギリギリを狙って、惑星破壊キャノン砲をブッパ。仮にアメスライバを完全消滅できず、肉体の一部が残ったとしても、運営が戦闘を中断してくれる。そのあとのことは、その場で判断。
そしてなにより、残り3日間断食させることで、アメスライバの体力も断然減少し移動速度は半分以下、おそらくはその想像以上に鈍化するだろう。このメリットが一番大きい。
2つ目の策。
栄養ドリンク剤で残り2日をクリア、最後の1日を、とにかく根性で凌ぐ。
3つ目の策。
懸念点である筋力維持のため、惑星破壊キャノン砲をパージする。床に放置し、100時間上限ギリギリのところで発射できるようエネルギー充填を開始し、固定砲台のようにその場で発射する。
何を隠そう、惑星破壊キャノン砲は100kgもある。それ以外が今回の軽量化のおかげで80kg。つまり、右肩のキャノン砲を取り外すだけで、身が軽くなる上に重心が安定する。筋肉への負担は5分の1、張り詰めた緊張感から解放されることも加味すれば、10分の1くらいになるだろう。
4つ目の策。
最後の惑星破壊キャノン砲ブッパは、これまでの2倍の威力、つまり4時間のエネルギー充填で発射する。
床に放置したままの発射であれば、アラトの頭が燃えるように熱くなることはない。おまけに威力が倍であれば、アメスライバの肉体完全消滅の成功率はグンと上がる。
「ヨシッ! これで行く! いや、これしかない! ギリコちゃわん、待っててね、必ず第一回戦は突破するから!」
惑星破壊キャノン砲をパワードジャケットから分離させ、作戦通り床に置くアラト。
アラトは決死の覚悟を決めた。トータル100時間不眠不休。おそらくは、想像を絶する自分との闘いが待っている。
アラトは、グッと拳を握る。
「ボ・ク・ハ、やると決めたら、絶対やる男だぁぁぁ!!」
◆ ◆ ◆
それから48時間経過。
狙いどおり、アメスライバの動きは徐々に鈍化していた。従って、回避行動の周期も徐々に長くなり、より一層楽なる。
試合開始から数えて3日目の9時、栄養ドリンク2本目を飲んだ。
続いて4日目の9時、つまりたった今、3本目を飲み干した。
ギリコが準備した最新鋭栄養ドリンク剤のおかげで、肉体が欲する栄養素は確保できているし体力回復もできている。がしかし、不眠不休というのは別の深刻な問題があった。脳の疲労だ。
アラトは、脳を休ませることができないのがこれほどまでに辛いとは想定していなかった。睡魔との長期戦で、あえて様々なことに思考を巡らせたが、時折、発狂したくなるような衝動に襲われるのだ。
だが、意外なことに、いや、幸運にもふだんの能天気脳がここで大活躍を始めた。
「気楽に行こう、気楽に……。人間いつかはみんな死ぬ……」
あえて何も考えない、心を無にするという選択が、ルーティンワークの無意識実行と意識保持の継続という2つの矛盾行為を両立させた。
「これって、一子相伝究極奥義になるな。僕が最初の伝承者。無から転じて……」
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
【ポイント評価の心からお願い】
継続して読む価値がある作品だと感じていただいてる読者様、どうかお願いです。面白い作品になるようにと、一生懸命頑張ってきました。作者へのご褒美と思って、ポイント評価をお願い申し上げます。




