第三十七章 主人公VSスライム その3
試合開始後、6時間経過。
惑星破壊キャノン砲2回目のエネルギー充填が完了した。
アラトはずっと2発目をどうやってアメスライバに直撃させるか考えていた。
惑星破壊キャノン砲の砲身は90度真下に向けられない。ジェットシューズで飛行する体勢が、直立していないと飛べないからだ。つまり、アメスライバが真下に来たら狙うという戦法を選択できない。
最初の下方向ナナメ撃ちは、また逃げられる可能性がある。どうしたものか。
「1発目で半分。2発目で残りの半分。それで大丈夫!」
アラトは自分に言い聞かせて、最初と同じ要領でアメスライバを仕留めることにした。
アメスライバに照準を合わせ発射態勢。基本的には、キャノン砲が自動的に微調整をしてくれる。
「ファイヤァァァー!」
アラトの懸念はある意味当たっていた。
ナナメ撃ちがどうとかではなく、10秒もの発射タイムラグがあるため、アメスライバはあっさり回避した。
これも本能だろう。アメスライバに知能があるとは思えないが、さすがに肉の半分を蒸発させた天敵のような存在は記憶に残る。しかも豪快な発射音と閃光を放つのだから、認識できないはずもない。
「そうくるか……」
アラトもさすがに意気消沈した。
また同じ回避行動を再開しながら、次の作戦を考えなければならないのだから。
◆ ◆ ◆
その後、結局アラトは3回同じことを繰り返し、計5発ブッパしたがことごとく失敗に終わる。
闘技場のクレーターも5箇所。これ以上は増やしたくない。
なんやかんやで18時間以上経過していた。
エネルギー充填時間を倍の4時間にしてもいいのだが、倍の照射継続時間だと砲身から伝播する高熱でヘルメットごと頭が燃えてしまいそうなので試したくない。直感的に本能がそう訴えている。
右腕に装備している精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃を使用することも考えたが、とにかく出力が弱すぎる。とてもじゃないが、アメスライバにヒットしても蒸発させるだけの威力は無い。
そして最悪のシナリオは、アメスライバがまた半分のサイズになって生き残り、ピョンピョン跳ねだしたらとてもじゃないが逃げ切れない。
「疲れた……マジ疲れた……。お腹もすいた……。こんなん無理だよ……。もうイヤ!」
アラトは、疲れたし、眠いし、喉渇いたし、お腹もすいたしで、弱音を吐く。
しかしアラトはこれでも一応スポーツマン。御多分に漏れず、苦しい時こそ、根性論が魂を支えてくれるとわかっている。
「ダメダメ、アラト! 諦めたら、そこで試合終了だぜ!」
半日以上ずっと繰り返してきた回避行動が、ルーティンワークとしてアラトの体に染み付き、無意識でも実行できるようになっていた。
朝9時に試合がスタートし、今は夜中の3時。闘技場に昼も夜もない。ここから、地獄の睡魔が襲ってくるのは間違いない。
◆ ◆ ◆
それから6時間後、朝9時になり24時間経過する。
アラトは睡魔と奮闘し、思考を巡らせることなく無意識に回避行動を継続していた。高速道路の長時間運転で、突如、無意識に運転していたことに気づくことがあるが、それに近い感覚なのだろう。
肉体疲労も蓄積しているが、それ以上に空腹と喉の渇きがもっともアラトを苦しめた。むしろその苦痛が、アラトの就眠を妨げている。
「水ぅ~、水ぅ~、本気で死ぬぅ~」
朦朧とする意識の中で、ギリコの声が聞こえてきた。もちろん幻聴なのだが、彼女がいつぞやに発したとあるセルフを思い出す。
——アラトさん、ジャケットのポケットに栄養ドリンクが入っていますから、疲れた時は戦闘中でも飲んでください。すっきりしますよ——
脳裏に浮かんだギリコの顔が天使に見える。
(天からお迎え? 僕、死んだのかな?)
いきなり、フッと意識がはっきりし、ジャケットの腰部分にあるウエストポーチのようなポケットをまさぐる。
「アッタァ! アッタドォォォ~!」
アラトは、ポケットの中に3本の栄養ドリンク剤を見つけた。
回避運動を継続しながら、栄養ドリンクを1本グビグビ飲み干す。量は少ないが、1本飲んだだけで喉の渇きを十分潤し、空腹感すらも消失していく実感が沸いた。
「ヤッベ、これ、マジきくっす! うぉぉぉ~、さすが世界最新鋭の栄養ドリンク! きっくぅぅぅ~」
アラトは急に元気を取り戻した。
残り2本は大切に保管する。
「ギリコちゃわ~ん! 愛してるよぉぉぉ~」
アラトは急に大声を張り上げ、どこに中継用カメラがあるのかわかならないが、ギリコに向けアピールした。
(ギリコ、黄色い声援送ってくれてるのかなぁ~)
急に眠気も素っ飛んできた。おそらくカフェイン系の眠気覚ましも含有されているのだろう。しかもかなり強力。そして、空腹感と口渇感も満たされ元気を取り戻すアラト。
頭を左右に振り、脳を活性化させる。
(さて、このまま同じことを繰り返しても勝ち目はない。必ずこちらが先にぶっ倒れる。意識を失ったら、それだけで負け確定。骨までしゃぶり尽くされてあの世行き。
突破口はあるのか!?)
アラトは興奮気味に、とある映画のシーンを思い出す。刑事がたった一人で高度な武装強盗集団に立ち向かうドラマ。絶体絶命の状況を打破していく屈強な男が前向きに行動開始するシーン。
「Think, goddamn it, think!」
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
【ポイント評価の心からお願い】
継続して読む価値がある作品だと感じていただいてる読者様、どうかお願いです。面白い作品になるようにと、一生懸命頑張ってきました。作者へのご褒美と思って、ポイント評価をお願い申し上げます。




