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第三十六章 アラトの新しい決意 その2

36.1 アラトの新しい決意 後編


 日も沈み辺りが完全に真っ暗になる。


 なんとかバランスを崩さない程度に慣れることはできた。


 やりすぎて疲れるのもマズい。ある程度のところで訓練を終わらせ、二人はアラトの部屋に戻って明日に備えることにした。


 装備を外し、シャワーを浴びる。明日の作戦を再確認し、アラトが就寝の準備を済ませるとギリコは部屋に戻ろうと立ち上がった。


「ではアラトさん、明日の朝も出撃前の準備をお手伝いしますので、今日はもうゆっくり休んでください」


「うん、ありがと、ギリコ」


 ドアに向け歩き出すギリコ。


「えっと、ちょっと待ってギリコ、聞いてみたいことがあるんだけど」


「はい、なんですか、アラトさん」


 ギリコが戻ってきて、アラトの正面に立つ。


「えっと……」


 アラトが照れたように頭をかく。


 ギリコが首を傾げる。


「どうされたのですか? キスをすればいいのですか?」


 ギリコが一歩前に出てきて、アラトとの距離を詰めた。


「いや、そうじゃないよ!」


 ギリコの両肩をつかんで、元の距離に戻す。


「その、ギリコに聞いてみたいんだけど……」


「はい」


「ギリコって、なんか望みとか夢とか無いの?」


「望みとか夢とかですか? わたくしの望みは任務達成だけです。早くわたくしに惚れてください、アラトさん」


「いや、まぁ、そうなんだろうけどさぁ……。それ以外に」


 ギリコがまた首を傾げた。最近、この手の挙動がかわいいから困る。


「それ以外ですか。特には」


「ギリコってさ、童話のピノキオって知ってる?」


「はい、一応データバンクに入っていますので。木製のあやつり人形が、命を与えられて人間の男の子になるストーリーです」


「そう、それ!」


「それが何か?」


「ギリコがもしピノキオだったとしたら、どう思うかな?」


「わたくしがですか?」


「うん」


「人間の男の子になるのですか?」


「女の子に決まってんじゃん! ギリコ、女性なんだし」


「ロバの耳になるのですか?」


「かわいい質問だけど、なりません」


「鼻が伸びるのですか?」


「う~ん、嘘をつくと伸びるかな」


「では、嫌です」


「ゴメン、今の嘘。鼻は伸びないからご安心ください」


「それは良かったです。人間の女の子になったとしたら、どう思うかという質問でいいですか?」


「うん。もちろん、超絶美人のままでね」


「わかりました。検討しますのでお時間ください」


「いいよ」


 ギリコが目をつむって考え事を始めた。


 アラトは黙ってギリコを待つ。

 5分くらい経っただろうか。ギリコの両目がパチッと開いた。


「わたくしがですか?」


「そうだよ」


 アラトをジッと見つめるギリコの瞳が少しずつ潤んできた。キラキラと宝石のように輝き始める。


「とっても嬉しいと思います」


「ホントに?」


「はい」


 何かを期待しているかのように、ギリコは黙ってアラトを見つめ続ける。アラトは顔を赤らめながら語る。


「じゃ、優勝報酬は、『ギリコを人間にする』でいいかな?」


 ギリコの呼吸が少しだけ荒くなり、表情が驚きと喜びとで満たされていく。そして無言でゆっくりと、それでいて大きく首肯した。


 ギリコはアラトの首にもたれかかるように抱きついた。勢い余って後方へ倒れる二人。


 仰向けに倒れたアラトをギューッと抱き締めるギリコ。少し力が入りすぎなのだが、アラトはそのまま受け入れた。


「じゃ、僕、がんばるから。ギリコが人間になれるように」


 床に倒れたままアラトを見つめるギリコ。そのまま唇をアラトの口元に近づけた。アラトは抵抗しない。


 ギリコはアラトにキスをした。


 唇と唇がわずかに押し合う柔らかいキス。ほんの数秒間のキス。


 アラトがゆっくりとギリコの身体を離した。


「ギリコを人間にしてください」


 ギリコがアラトにすがるように言葉を発した。ギリコの桜色に染まった頬が湯気立つように熱く、女の色気をほんのり放っている。アラトは無言で彼女の顔を見続けた。


 しばらくして二人は無言で立ち上がる。


「それではアラトさん。明日の朝、来ますので」


「うん」


 ギリコは静かに部屋を去った。


 微動だにしないアラト。荒くなった呼吸をゆっくり整える。


 それから右手を見て軽く握った。さらにグッと握って拳を作り、自分自身に向かって決意を示した。



 §   §   §



36.2 大会十九日目の朝 アラトの部屋


 翌朝、アラトが目を覚ます前に、ギリコが部屋に来て準備をしている。


 おはようのあいさつをお互い交わすだけで、二人は妙に無言だった。アラトは昨晩の余韻が続き、妙に照れくさい。その雰囲気を察してなのか、ギリコもわずかに頬を赤らめたまま、黙々とアラトの出撃準備を手伝っていた。


 アラトの装備はパワードジャケットMkⅡ、惑星破壊キャノン砲、精神制御脳波誘導ハンドレーザー銃と、新装備の飛行ジェットシューズ。


 今回は大型シールドを携帯しない。


 結局、二人はほとんど会話することもなく、アラトの部屋にやって来た警備ロボの案内に従い玄関を出る。


 アラトの出発に合わせ、ギリコがようやく口を開いた。


「アラトさん、無事戻ってきてください」


「うん、大丈夫。ギリコの作戦どおりにすれば勝てるし」


「はい、期待しております」


「じゃ」


 ギリコは玄関先で見送ってくれた。


 アラトは勝利に向けて、改めて自身の決意を確認する。


「ヨシ! 今日こそは勝つ!」



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【ポイント評価の心からお願い】

 継続して読む価値がある作品だと感じていただいてる読者様、どうかお願いです。面白い作品になるようにと、一生懸命頑張ってきました。作者へのご褒美と思って、ポイント評価をお願い申し上げます。

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