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第三十六章 アラトの新しい決意 その1

36.1 アラトの新しい決意 前編


 敗者復活戦第一試合終了。


 ギリコは勇者の必殺奥義を間一髪でかわし、予定通り敗者として試合を終えた。


 アラトはすぐにでもギリコの無事を自分の目でじかに確認しに行きたかったが、それは我慢した。


「ヨーシ、次は僕の番だ! せっかく与えてもらった二度目のチャンス、もうカッコ悪いところ見せられない!」


 昨晩、アラトはギリコの再出場を心配したが、自主的に降参することもわかっていたので少しは安心できた。


 そしてアラトが敗者復活戦で必勝できるように、ギリコが戦術をしっかり練ってくれたのだ。


 ギリコが提示してくれた必勝法を可能にするためには、追加装備の入手が必須なのだ。おまけにパワードジャケットも軽量化されているとのこと。今日の午後に入荷するらしいので、それまでギリコの邪魔をせず待つことにしている。


「そんでもって、本気で勝つためにどうすりゃいいんだ?」


 アラトは敗者復活戦の出場が確定して以来、ずっと考えていることがある。どうのこうの言っても、やっぱりアラトの胸のうちでモチベーションが上がらない。この問題をどう解決するべきかということ。


 アラトにとって問題点はいくつかある。


 まずは、これがある意味脅迫による強制参加であること。


 意味不明な試合で死にたくない。つまり死んでもいいと思えるレベルの動機がほしい。事実、『敗北宣言』であっさり死を回避できるのだから、勝利にこだわらないだろう。


 ギリコに一杯食わされた感がハンパないが、肥満超人ザ・ハンバーガーマンの登場が無ければ、アラトは出場を決心していなかったに違いない。


 そして実質モチベーションになっていないことが一つ。


 アラトが敗退してしまった対ネコ耳メイド戦の出撃前に二人で交わした約束。つまり『勝てばアラトの望みを一つ叶える』というギリコとの約束だ。実のところ、ギリコに叶えてほしいという望みは『この大会を辞退する』以外、特に浮かばない。


 そういえば、ギリコからキスするという約束もあった。


 ギリコに対する感情。これが実に不可解だ。


 アラトは『ロボットに対して恋心を抱かない』と本気で思っている。しかし最近のギリコが女性としての魅力を振りくようになって、その考えが揺らいでいるような気がする。


 それ自体も、ただの錯覚なんだと解釈しているのだが……、とにもかくにも認めたくない。


 現実的な問題として、万一アラトがギリコに惚れたとしたら、ギリコの最優先任務が完遂してしまう。任務終了すると同時に、彼女がアラトに対してメチャクチャ冷徹になるんじゃないかと、本気で心配しているのだ。


 ギリコと出会った頃のアラトに対する非情で冷たい彼女の態度が、どれだけアラトに辛い思いをさせたか。思い出しても身が凍る。


 その意味もあって、好きという感情は断固否定する。


 そして重要なカギになるのが、本大会の優勝報酬だ。


 『優勝すれば何でも望みが一つ叶う』というのだ。ギリコいわく、どんなことでも叶えてもらえるらしい。この大会で毎日起きている非現実な出来事からすれば、『なんでもあり』は、むしろ現実的だと解釈しても不思議ではない。


(僕の望みってなんだ? お金持ち? そんなんでいいわけ? もっと神懸かみがかった、常識で叶わないような願い事……)


 う~ん、と唸りながら部屋の中をウロウロ、ソファーに座ったりベッドに寝転がったりして考え悩む。


 床であぐらをかき考え事をしていたアラトが唐突に立ち上がった。


「そうか! これだ! 優勝目指して願い事を叶える! これっきゃない、これっきゃないぞぉ!」


 アラトは両手で拳を握り、ガッツポーズをしながら叫んだ。



 ◆   ◆   ◆



 午後3時頃、ギリコがアラトの部屋にやって来た。


 パワードジャケットMkⅡと追加装備が届いたので、すぐに装着して二人でチェックを始める。


「だいぶ軽くなったと思う。いいよ、コレ! これならギリコの作戦、絶対上手くいくよぉ!」


「当然です。IQ10,000で改良しましたから」


「さすがギリコ、頼りになる!」


「当然です」


 ギリコはドヤ顔しながら、頬をわずかに赤く染める。


「これが、今回配備が間に合いました飛行ジェットシューズです。これが無いと、作戦遂行できませんので」


「オォォォォォォ! これでズッコケたときも、バッチリリアクションできるぞ! 宇宙の果てまで素っ飛ぶ的な!」


「残念ながら、これで宇宙の果てには行けません。アラトさんがリアクションに命を懸けていると知りませんでしたので」


「えぇぇぇぇぇぇ~、無念……」


「申し訳ありません」


「じゃ、すぐに試してみる。がんばるから取りあえず褒めてね。『飛べない豚もおだてれば飛びます』って感じで」


「アラトさん、応援はしますが、いったいどういう意味ですか?」


「気にしない、気にしない。じゃ、夜まで訓練としゃれこみますか! やっぱ、慣れないとね」


「はい。頼もしいです、アラトさん」


「そお? ワーイ!」


 アラトは庭園に移動し、ギリコが見守るなか飛行訓練を行った。


 しかし飛行訓練開始早々、アラトはかなり面食らっていた。扱いがあまりにも難しすぎるのだ。


「ぬぉぉぉー、なんじゃこりゃぁぁぁー!」


 飛行ジェットシューズは、シューズの側面に設置されたスペースシャトルのような形状の小さなジェット噴射機構で飛行する。つまり、上下方向への推進力だけで飛行し、空中における前後左右方向への移動は、両足の向きでコントロールしないといけない。


 要は、常に直立した格好で飛ぶのだ。


 そして下半身の姿勢に影響を受けやすいことと、パワードジャケットの重心が高すぎることで、とにかくバランスが悪い。パワードジャケットのバランス維持装置が補助するが、これはかなりの慣れが必要となる。


 しかも、全装備の全重量に対し単純にジェットパワーが不足しているので、飛行スピードが非常にのろい。


 シュゴォー、っとジェット噴射開始して、ゆっくり上昇しフラフラと宙を移動、着地もふらつきながら降りてくるイメージ。


「マジっスか!? マジ、ムズい! ムズいって! 足が震えるし、腰がきつい! よく、こんなんで……」


 アラトはブツクサ文句言いながら、上昇、着地を繰り返し練習した。


 ギリコは長いこと心配そうにアラトを見守っていたが、おそらくハラハラしっぱなしだっただろう。


 そのギリコの頭上を、大きく釣鐘つりがねを描くように飛び越えて降りてきたアラトが語る。


「何を隠そう、テニスの特訓でもそうだったけど、こういう単純な繰り返し練習嫌いじゃないんだよねぇー」


「そうなのですか?」


 披露困憊ひろうこんぱいの顔に笑顔を薄っすら浮かべてアラトが答える。


「そうだよ! しんどいけど、かいた汗見て自分に陶酔できちゃうから。『できない』が『できる』に変わったら、自分のことカッコえーって思えるじゃん! この程度のことで青春感じる自分が好きなんだよ、ボカァーねぇ!」


 ギリコが何も言葉にせず、安心したように微笑した。



【作者より御礼】

 数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。


【ポイント評価の心からお願い】

 継続して読む価値がある作品だと感じていただいてる読者様、どうかお願いです。面白い作品になるようにと、一生懸命頑張ってきました。作者へのご褒美と思って、ポイント評価をお願い申し上げます。

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