第三十四章 アラトの挑戦再び その2
34.2 アラトの挑戦再び
夕方の発表を待っていると、敗者復活戦出場は、アラト、ギリコ、勇者シン・ガイディーン、アメスライバのたった4選手だけだった。
他の選手のダメージ量を想像すると、不参加は致し方ないことだろう。
勇者シン・ガイディーンとアメスライバが対戦していることを踏まえ、組み合わせは以下のとおり。
●明日の対戦:敗者復活戦第一試合
ギリコ VS 勇者シン・ガイディーン
●明後日の対戦:敗者復活戦第二試合
アラト VS アメスライバ
◆ ◆ ◆
その日の夜、アラトの部屋にアラトとギリコの姿があった。
ギリコの提案で、第六試合『勇者VSスライム』の試合録画映像を二人で見ることにしたのだ。
「勇者シン・ガイディーン……、初めて対戦表見た時から気になってる」
「どうされたのですか、アラトさん」
「ちょっとね……、この勇者シン・ガイディーンって名前、心当たりがあるんだよ」
「そうなのですか」
「うん。その名前ってさ、僕が中学生の頃からいまだに流行ってるネトゲの主人公なんだよねぇ~」
「何を隠そう、わたくしのメモリーバンクにもデータがあります」
「マジで?」
「はい。世界でもっとも人気のあるフルダイブ型VRMMORPG『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』に登場する主人公ですね。この名前は」
「そう、それ! 僕もやったことがある。まぁ、僕は途中でいろいろ断念してるけどね」
「そうですか。
この偶然は三つ理由が考えられます。
一つ目は単なる偶然。
二つ目は、当人がこのゲームを知っていて、名前を拝借した。
そして三つめは、そのゲーム上の仮想空間、メタバースが現実世界とつながって顕現化した」
「まさかの異世界転移……、逆輸入版」
「異世界転移の逆輸入版という表現が正しいかどうかわかりませんが、そのようなイメージです」
「『九尾のよう子ファイティン!』の九妖妃もそんな感じだし。ここまできたら、それもアリよりのアリだよねぇ。メッチャオモロいな……」
「オモロいで済めばいいのですが……。
ときに、蟻と蟻がどうしたのですか? 蟻とキリギリスではないのですか?」
「何言ってんだか。その質問、ナシよりのナシ!」
「梨が無いから食べられないと……」
二人がだべっている間に、試合録画映像がスタートした。
モニターに映る勇者の姿を見て、アラトが興奮気味に言う。
「やっぱり、見た目があのネトゲの勇者だよ、これ! 初めて見た時もそう思ったけど、あん時、ギリコいなかったからさ、何も訊けなくて……」
「フルダイブ型VRMMORPG『真勇者の異世界冒険:魔王軍百年戦争』に登場する主人公で間違いないです」
「ゲーム内の勇者の設定ってさ、主人公だけあって結構強いんだよねぇ~」
「そうですね。
公式ゲーム攻略本によれば、『勇者の鎧』は受けた物理的魔法攻撃を半減させるとあります。
そして最大の特徴は、対となっている剣と盾の連携能力。
盾で受けた攻撃を全てエネルギーに変換して吸収、そのエネルギーを剣に集約、蓄積。剣でエネルギーを衝撃弾、火炎弾や雷撃弾に変換して使用。
敵がどんなに強力な攻撃を繰り出そうとも、この反撃パターンで必ず勝利を導くとされています」
「よく見るとさ、レベル999ってカンストしてんじゃん。これってもう最強じゃん。優勝確定じゃね?」
「さぁ、どうでしょうか。ゲーム内のレベル設定と現実世界とのギャップがどの程度なのか。どう転んでも人間という域は超えられないですし、受動的反撃方法が豊富でも、能動的攻撃手段が少ないように感じます」
「う~ん、そうかもね」
「それとご安心ください。アラトさんが優勝すればいいだけのことですから。オホホホホホ」
「全然安心材料じゃないよね、それって」
しばらくして第六試合『勇者VSスライム』の試合録画映像が終わった。
自分の部屋に戻ろうと立ち上がったギリコに、アラトが話し掛けた。
「とにかく、明日は無理する必要ないから、さっさと棄権しちゃってください」
「かしこまりました」
「そんでね、ちなみにだけど……」
「はい、アラトさんのご想像どおり、大人気AIタレント『クレオパトラ・ヴィーナス』として出場します」
「じゃ、この前と同じ……」
「はい。例のエロエロスパイもどきコスチュームで出場しますわ。それがナニか?」
「いえ、その、ゴニョゴニョ……」
「ゴニョゴニョ?」
「いえ、その、ゴニョゴニョ……」
「はい?」
「もう、いいから! おやすみ!」
§ § §
34.3 大会十八日目の朝 アラトの部屋
翌朝、アラトはソワソワしていた。
ギリコの敗者復活戦。
今朝はアラトの部屋に顔を出すこともなく、直接戦場へと向かうことになっている。
そしてなんといっても相手は、あの勇者シン・ガイディーン。ギリコが試合途中で棄権するとわかっていても、心配はするのだ。
【作者より御礼】
数ある作品群から選んでいただき、かつ、継続して読んでいただいていることに、心から感謝申し上げます。
【ポイント評価の心からお願い】
継続して読む価値がある作品だと感じていただいてる読者様、どうかお願いです。面白い作品になるようにと、一生懸命頑張ってきました。作者へのご褒美と思って、ポイント評価をお願い申し上げます。