9 兄叔父上の焼きおにぎり
「これは毒草。これも、毒草。これも……おまえ、毒草を摘む才能があるな……」
「が、頑張ったんだけどね……! 見分けがつかない」
レグルスでさえ毒草は摘まないのに、とシャロンは肩を落とす。レグルスは早々に薬草摘みに飽きて、シヴァを連れて山を案内しに行ってしまった。
「だから連れてくるのは嫌だったんだ……」
ぶつぶつと文句を零すアルクトゥールスに、シャロンは笑う。
「でも、アルクはレグルスが、とても可愛いって顔をしているわ」
「……まあ、たった一人の甥っ子だからな。それより、本当に薬草を覚えたいなら、葉っぱの特徴をよく見ろ。毒草と見比べてみろ」
「はい」
しゅんとすると、アルクトゥールスはぽんぽんとシャロンの頭を叩いた。回帰前に比べれば確実に関係はよくはなっていると思う。だが、それはレグルスと同じレベルの扱いに思えた。
でも、それでも今は良いと思っている自分もいる。少しでも距離が縮まったのがただ、嬉しい。
薬草と毒草を見比べる。そう言えば、とシャロンはふと思い出す。
回帰前にシャロンが眠れなくなり、アルクトゥールスが眠剤だと処方してくれたことがあった。なのに、私はそれを無碍に断ってしまった。こんなたいへんな工程を経て薬を作ってたのかと、今更思う。
今更、自分の浅慮に恥ずかしくなる。アルクトゥールスは、こんな私のために薬を作ってくれたと言うのにーー。薬もアルクトゥールスの気遣いも、私は無碍にしてしまったのだ。
「ん? どうした?」
「……なんでもない」
物思いに耽ったシャロンにアルクトゥールスが怪訝そうに尋ねる。シャロンは無理に笑ってみせた。
太陽がちょうど真上に上って、陽射しが高くなる。アルクトゥールスが顎に手をやり考え込むと、シャロンを見つめた。
「そろそろ、お昼だな。腹は空いたか?」
「え? ああ、少し」
そう聞くとアルクトゥールスは枯葉や枯れ枝を集め、火打ち石で火を起こした。持っていた袋から干し飯を出すと火に炙って、味噌をつける。その手際の良さに驚いていると、そら、と焼きおにぎりを渡された。とても香ばしい良い匂いがする。
「口に合うかはわからないが、腹の足しにはなるだろう」
そう言いながら2つ、3つ、と焼きおにぎりを作っていく。
「アルクって、器用なのね……」
「……お前が不器用ってことはないか?」
そうダメ出しをされて少し落ち込む。そこまで不器用とは思ってなかったが、アルクトゥールスから見ればそう見えるかもしれない。そこへ明るい大きな声が割り込んでくる。
「あー! 兄叔父上の、焼きおにぎり! 僕も食べる。シヴァのもある?」
「あるぞ。こんなので良ければ食べてくれ」
「わあ。ありがとうございます!」
シヴァも嬉しそうに受け取った。
レグルスはその様子を見て、にっこりと2人向かって微笑んだ。
「兄叔父上の焼きおにぎりは美味しいよ! シャロン、シヴァどう?」
「うん……美味しい」
「とっても、美味しいです」
味噌がとても香ばしく、口の中にふんわりと広がる。
「美味しいって。ほら、良かったね、兄叔父上!」
「冷めるから早く食べろ」
照れてるんだよ、とレグルスに耳元で囁かれて、シャロンはこっそりと笑みを零した。