8 薬草摘みへ
読んで下さってあリがとうございます。お昼前にまた更新する予定です
「アルク、山へ行くの?」
そう尋ねると、どうして、わかったのかというような不思議な顔をする。
嫁いで1月余りが経った。良く晴れた日の午前のことだった。アルクトゥールスが支度をしているのを見て、思い切って声をかけたのだ。
「そうだ。俺は薬師と医師を兼ねているからな」
「一緒に行っても良い……?」
そう尋ねるときょとんとした顔をされる。
「良いけど……何をしに行くんだ?」
「私も薬草を覚えたくて」
回帰前もアルクトゥールスは良く山に行って薬草を摘んでいた。シャロンは一度も一緒に行ったことがなかったが。言い出せずにいたが、何をしているんだろうとの興味はあったのだ。
「変わってるな……行くなら動きやすい服装で来い」
「うん、あリがとう」
シャロンは内心で喜んだ。まさか許可が出るとは思わなかったのだ。
「兄叔父上ー! シャロン、どこに行くの!?」
澄んだ子どもの声が響いて、シャロンはにっこりと微笑む。声の主はアルファルドの一人息子のレグルスだ。一緒にシヴァも歩いてくる。
「レグルス様! 走ってはだめです! お行儀が悪いです!」
シャロンに抱きついたレグルスは、そんなシヴァの小言にも気にせず屈託なく笑う。
「シャロン、僕もついて行っても良い? もちろん、シヴァも」
「え!? 僕もですか?」
レグルスは子ども特有の大らかさか、シヴァを、気に入って離さない。もちろん、シャロンにも好意を隠そうともしない。回帰前、レグルスとさえ疎遠だった自分はどれほど殻に籠もっていたのだろうと考えると情けなくなるほどだ。一歩踏み出せば、外にはこんなに幸せがあったというのに。
シャロンは屈んでレグルスと目線を同じくする。
「薬草を摘みに山に行くのよ。アルクが良いって言ったらね」
「兄叔父上ばっかりシャロンを独り占めしてずるい! 僕も行っていい?」
「レグルスはすぐ飽きるからダメだ」
アルクトゥールスに言われて、レグルスが頬を膨らませる。
「ええ! ちゃんとやるからさー! ちぇっ、兄叔父上のケチー!」
「ケチじゃない。じゃあ、ちゃんと摘めよ。薬草の種類は分かっているんだろうな?」
「わかってる! ちゃんと、頭に入ってるよ! やったー! 皆でお出かけだ」
そう言ってシャロンに抱きついてくるレグルスの頭を撫でてやる。白い髪は緩くウェーブしていて、ふわふわと、柔らかい。
どうやらレグルスは、これまでもアルクトゥールスと山に登った経験があるらしい。
「レグルスは薬草を知っているのね。私にも教えてくれる?」
声を潜めて尋ねると、もちろん! と元気な声が返ってくる。
「……じゃあ、行くか……」
ため息をついたアルクトゥールスを先頭に、一行は山に入った。