6 兄と弟
「……なんか、へんじゃないか。兄上」
「なにがだ」
「あの娘、レアルから来たのだろう。来たくてきたわけではあるまいに、悲壮感がない」
「良いことじゃないか。おまえは悲壮感のある嫁がほしいのか」
その言葉に、そういうことではなくて! とアルクトゥールスが声を上げる。
二人の前にはお茶と、甘い菓子が置かれている。先ほどまでにはない、寛いだ雰囲気が流れていた。
「レアルはアルーアを蛮族と見做してた。それなのにあの娘はそういった態度がまるで見られない」
「それを言うなら、シヴァという子もだな。シャロン殿はアルーアの礼をとってたし……侮蔑してくる嫁じゃなくて良かったじゃないか」
「人ごとだと思って……」
まあ、とアルファルドはお茶を一口飲みながら続ける。
「長年のレアルとの関係が修復できる良い機会だ。おまえも疑ってばかりいないで、きちんとシャロン殿と話をするんだぞ」
「やっぱり人ごとだと思っている」
そうつぶやくアルクトゥールスにアルファルドは優しい視線を向けた。
6歳年下の弟はもう19になり成人も迎えている。それでもふたりで生きてきたという思いがある。いつまで経っても、アルファルドにとってアルクトゥールスは、可愛い弟であることに代わりはない。
今回のレアルとの婚姻は自分がもう既に妻子がいるため、弟に話が回った。良い結果になれば良いと、心の底から願っている。
アルクトゥールスは、憮然と言った表情でお茶を飲んでいる。
「アルク。本当にシャロン殿としっかり話をしなさい。夫婦と言えども他人だ。話さねば分かり合う事はできない」
「……わかっている」
けれど、とアルクトゥールスは続ける。
「俺が話そうとしても、向こうがどう出るかはわからない。その時は、俺は責任は取らない」
弟は望んで結婚するのではない。改めて弟の胸中を聞き、アルファルドの胸は痛んだ。
自分がリラと恋愛結婚をしたという負い目が、アルファルドにはあるのだった。
「……きっと、上手く行くさ」
「……どうだか」
兄と弟は、心のなかでこっそりとため息をもらした。