5 異郷の地へ
「こちらが、第二王子のアルクトゥールス殿下です」
日に焼けたような褐色の肌、白い髪の色。黒い眸。アルーアの民は全員同じ特色を持つ。自分だけがひどく浮いて見えた。それは1年前にも思ったことだ。
船旅をして1月余り。シャロンは再びアルーアの地に降り立った。今日は初めてのーーシャロンにとっては2度目の顔合わせの日だった。
ブラウスに長いスカートを履き、帯を締める。1枚布を腰から巻き、肩口には繊細な銀細工のブローチを留める。アルーアの民族衣装に着替え、シャロンは前に進み出た。
男性はこれにズボンを履き、肩口から1枚布を巻きつけるのがアルーアの伝統的な衣装だ。
アルクトゥールスはやはり乗り気ではないのだろう。そっぽを向いている。
その横顔に懐かしさが募った。シャロンは湧き上がる想いをぐっと堪える。
「シャロン殿。よく来てくださいました。私は第一王子のアルファルド。こちらは妻のリラと、息子のレグルスです」
アルクトゥールスとよく面差しの似た青年が、几帳面な口調で紹介する。
シャロンよりも年上に見える淑やかそうな女性と、10歳頃だったろうか。大きな瞳の男の子がこちらを見ている。彼らのことも知っている。見知っているという域を出なかったけれども。
「シャロンです。どうぞよろしくお願いします」
挨拶をレアル式のカーテシーから、アルーア式のお辞儀に変える。おや、というようにアルファルドの眉が上がる。
「こちらは、私の話し相手としてついてきてくれたシヴァです」
青銀の髪をしたシャロンよりも1つ年下の少年が頭を下げる。天主は、2番目に位の高い彼をシャロンの従者として選んだ。これは回帰前ではなかったことだ。
「シヴァと、申します。よろしくお願いします」
シヴァは屈託なく笑う。優しげで穏やかな大きな瞳。まだ成長期を迎えていない彼は笑うと、まるで女の子のように見えた。彼も同じようにアルーアの民族衣装に着替えている。
「結婚式は明日の夜に。今日はゆっくりおやすみくださいませ」
リラが、こちらに、とシャロンを案内する。シヴァと離れるのは彼が少し心配だったが、目線で彼が大丈夫です、と告げるのを見て、素直にリラの後をついていく。
夫となるはずのアルクトゥールスはついに一言も発しなかった。これは回帰前と同じだから気にしない。
廊下は庭に面していてひんやりとした空気が漂う。きしきしと、床を踏む音がする。建物は広いが全て木で作られた平屋であり、何もかもが故国のレアルとは違っていた。
「アルクトゥールスさまは、本当は優しい方なのですよ。もし、お気にさわりましたらごめんなさいね」
「いいえ」
シャロンは笑う。わかっている、彼が優しい人なのを。どんな態度を取られようと気にすべきことではない。
リラは少し意外そうに瞬きをしてから、嬉しそうに笑顔になった。
「私たち、義理だけど姉妹になるんですから。仲良くして下さいね」
「……はい!」
この言葉は回帰前ではかけられなかった。シャロンは嬉しくて笑顔になる。回帰前にもリラはいろいろ気を配ってはくれたが、自分が殻にこもってしまっていた。かけてくれた言葉が素直に嬉しい。
「温泉があるんですよ。とても気持ちいいんです。お背中、流してあげますね」
アルーアが温泉に恵まれているのも、温泉が気持ちが良いのも知っている。シャロンは微笑んだ。
お昼前にもう一度更新します。
お読み下さってあリがとうございます