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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第008話 不明な感情

毎日19時に投稿を頑張ります(8日目)


新連載の作品も読んで頂けると嬉しいです

【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】


ヴィエナは机に向かいながら、窓の外を眺めていた。

今日も外は穏やかな陽射しに包まれ、庭の花々がそよ風に揺れている。


しかし、彼女の心は落ち着かなかった。


(エドガー様からの返事……まだ届かないわ)


エドガーに送った勉強会のお誘いに返事がない。

侍女のエリザが「すぐに返事が来るでしょう」と励ましてくれたが、日が経っても手紙の返事はなかった。


「忙しいのかしら……?」


そう呟きながら、そっと胸に手を当てる。

彼と過ごした時間を思い出すと、心が妙にざわついた。

エリザが言うには恋……。前に手紙を出した時と違って落ち着かない。


(……考えすぎても仕方ないわね)


気分転換に外へ出ることにした。


庭へ向かうと、彼女の愛馬である白馬のルナが草を食んでいた。

「ルナ!」


ヴィエナが声をかけると、ルナはすぐに顔を上げ、大きな瞳を輝かせて近づいてくる。


「今日も元気そうね」

ルナは鼻を鳴らしながらヴィエナに寄り添うように顔を擦り寄せてきた。


「ねえ、ルナ。少し走らない?」


まるで言葉が通じているかのように、ルナは嬉しそうに前足を跳ねさせる。

(ふふ、こんな時はやっぱり、ルナと過ごすのが一番ね)


ヴィエナは軽やかに鞍へ飛び乗ると、手綱を軽く引いた。

ルナはすぐに動き出し、ヴィエナを乗せて広い庭を駆けていく。


(あぁ、気持ちいい……)


何も考えずにただ走るだけで、心が軽くなる気がした。


子供の頃から彼女の傍にいたルナは、唯一、傷を負った彼女を変わらずに受け入れてくれた存在だった。


「ルナ……あなたは、私がどんな姿になっても変わらないのね」


笑うことの少ない彼女はルナと話している時が、唯一、笑いながら子供のようになれる瞬間だった。


風を感じながら走ると、胸のつかえが少しだけ晴れた。


(……私が悩んでも、エドガー様から返事が早く来るわけじゃないもの)


そう自分に言い聞かせた瞬間だった。


「お嬢様!」


屋敷から走ってきたのはエリザだった。

息を弾ませながら手紙を掲げている。


「エドガー様から、お返事が届きました!」

「すぐ行くわ」


ヴィエナは内心とても嬉しかったが、それをエリザに見透かされるのが、どこか恥ずかしく、冷静にそう言って、手紙を受け取った。


(……よかった)


そっと指先で封を切る。緊張で手が震えそうだった。


――ヴィエナへ

返事が遅くなり申し訳ない。

次の勉強会の日程について、都合がついた。

11月11日に訪問する。

その日を楽しみにしている。


短いけれど、彼の端正な筆跡が並ぶ手紙を見て、ヴィエナはエドガーと会えるのが余計楽しみになった。


―――――――そして、約束の日――――――――


邸宅の玄関前には、馬車から降りたエドガーが立っていた。

貴族らしい整った立ち居振る舞い。

しかし、どこか柔らかい微笑みがヴィエナの心をくすぐる。


「こんにちは、ヴィエナ」


「こんにちは、エドガー様。今日は来てくださってありがとうございます」


二人は書斎へ向かい、勉強会が始まる。

「それで、サイーレ病についてですが……」


ヴィエナは持ってきた資料を手渡しながら、以前約束したサイーレ病について説明する。


「なるほど……衛生管理の貧しい農村ほどかかりやすい病なのか」


エドガーは真剣な表情で資料に目を通していた。

彼の横顔を見つめていると、彼がヴィエナにふと問いかける。


「ヴィエナは、どうして医療や領地運営を学ぼうと思ったんだ?」


ヴィエナは正直に、ゆっくりと答えた。


「……私が貴族社会から疎まれる存在になったから、でしょうか」

「学園の貴族の態度がゆるせなかったのです……それは今も変わりません」


続けてヴィエナは、傷痕がついた理由から学園の事など、これまでを全て話した。


「ですが今は、一つの理由だけではありません……」

「私が今こうしていられるのは、使用人や領民の皆さんのおかげ。

「だから、医療を学び領地を発展させたい」

「今度は私が皆を守りたいのです。」


エドガーは静かに頷いた。


「君は強いな、ヴィエナ」

エドガーは目頭を抑えるようにして、そう言った。


次はヴィエナが問いかけた。

「確か、エドガー様は騎士ではなく、別の方向でウェルナー領を守ろうとしているのですね?」


続いて少し考え込んでから、ぽつりと口を開いた。

「実は……僕は父とは考えが合わないことがあるんだ」


「お父様と?」


「父は、領地を豊かにすることには長けている。だが、弱者に寄り添おうとはしないんだ」


ヴィエナは息をのんだ。


「どういうことですか?」


エドガーはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「確かに、父の政策は優秀だ。経済は回るし、商人たちも活気づいている。でも……領地内には、今もなお困窮している人々が大勢いる。彼らは見捨てられ、声すら届かない」


「……」ヴィエナは言葉が出なかった。


「僕は、そんな人たちも助けられる領主になりたいんだ。その為にまずは医学を学んでいる」


エドガーの静かながらも力強い言葉に、ヴィエナの胸が震えた。

(この人は……なんて優しくて、素敵な人なの)


領地の隅々にまで目を向けようとしている。

(そんな領主が増えれば、世界はきっと変わる)


気がつけば、心には一つの想いが芽生えていた。


この人となら、一緒にいたい。

彼の信念の強さに、心が震える。この思いは、尊敬なのか、憧れなのか、それとも……

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