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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第069話 王宮での会議


―――――――――15時――――――――――


 王宮の東棟、普段は貴族たちの内輪で使われる小会議室――だが、本日はその荘厳な部屋が政治の舞台となっていた。


重厚なカーテンに囲まれ、壁には先王たちの肖像画がずらりと並ぶ。冷たい石の床に、青と金の紋章が施された絨毯が敷かれており、部屋の空気には沈黙と威圧が交錯していた。


 その中央に、長い楕円形の会議机。


既に席についているのは、スクアード王太子。隣にはそのナミュール第二王子。そして一際豪奢なドレスに身を包んだメリッサ夫人が、扇子を手に気だるげに座っている。


 扉が静かに開かれた。


 (深呼吸、深呼吸……)


胸元に手を当て、ヴィエナは一つ呼吸を整えてから、会議室に足を踏み入れた。三人の視線が一斉に注がれる。その圧に、思わず足元がすくみそうになる。


 「では、会議を始めよう。その前に――」


スクアードの凛とした声が室内に響く。


 「本日より、国政に参画してもらうこととなった、エムリット領主代行――ヴィエナ・エムリット嬢だ」


 紹介の言葉に、ヴィエナは静かに一礼する。

 「……まだまだ勉強不足ではありますが、皆様の助言をいただきながら、尽力いたします。どうぞよろしくお願いいたします」


 礼儀正しく頭を下げたその直後、パチン、と扇子を閉じる乾いた音が室内に響いた。


 「勉強不足では、政治なんて出来やしないわよ」


メリッサ夫人の声音には、笑みすら混じっていた。だがその実、口調には棘が潜んでいた。


 (……言葉狩りをしてくる方ね)


心の中でヴィエナは冷静に呟く。

言葉尻を捉え、巧みに矢のように返してくる。

そんなタイプだ。相手に「失言」の烙印を押して優位に立つ。侮れない。


 「さて、本日の議題に移ろう」


 ナミュール王子が真顔に戻り、厳粛に話を始めた。


「主題はアルメリア帝国との交易問題についてだ。現在、アルメリアではマスタング皇太子が新たな交易制限案を本国に提出している」


スクアードが小さく眉をひそめる。


「彼の案が通れば、我が国への輸出、特に貴金属が大幅に制限される。アルメリアからの輸入に頼っている鉱石類や精製金属が届かなくなれば、国内の製造業、特に武具や宝飾品の産業は大打撃を受けることになる」


その言葉が持つ影響はあまりにも重かった。


 スクアードが額に手を当てる。

 「……どうしたものか」


会議室の空気が一段と沈む。メリッサ夫人は無言で紅茶を一口飲み、何も言わない。


 (……本当に、難しい話……)


 ヴィエナは内心で肩を落としそうになる。

 (……勉強不足すぎるわ。私では、まったく解決策が見つからない)


 だが、それでも――この場に座っているのは自分だ。

誰かの代わりじゃない。王太子が「必要だ」と言ってくれたから、自分はここに呼ばれた。


ならば、せめて一つでも、問いかけることで何かを探れないか。


 意を決して、ヴィエナは口を開いた。


「あの……ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか」


 三人の視線が一斉に彼女へ向けられる。


 ヴィエナはまっすぐにナミュールを見据えた。


 「どうしてアルメリア帝国は、突然そのような貿易制限を提案してきたのでしょうか。何かきっかけがあったのですか?」


 途端に、空気が変わった。


 さざ波のように、重く静かな緊張が走る。


スクアードの目にわずかに陰が差し、メリッサ夫人の扇子の動きが止まった。ナミュールですら、言葉を選ぶかのように唇を結ぶ。


 一同が険しい顔を浮かべていた。


 (今の、そんなに変な質問だった?)

 だが誰もすぐに答えようとはしなかった。


その沈黙が、かえってヴィエナの疑問を深める事になる。

 

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