第055話 誤解よ解けろ
新連載
白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?
明日の月曜日更新予定!
「みなさん、聞いてください!」
拡声器を握りしめ、エドガーは緊張しながら声を張った。
「私はウェルナー公爵家のエドガー・ウェルナーです!」
広場の一角、通信室に設置された巨大な拡声器から、エドガーの声が街中に響き渡る。
「なんだ?誰だ、あの声……?」
道を歩いていた人々が立ち止まり、周囲がざわつき始めた。子供を連れた母親、買い物帰りの老人、荷車を引く商人たち──様々な人々が興味深げに空を仰ぎ、拡声器の方を見上げた。
エドガーは大きく息を吸い、続けた。
「先日、この街で──私たちのスキルシェアリングサービスに関して、怪しいビラがばら撒かれました!」
言葉に力を込める。
人々の耳が、少しずつ彼の声に傾き始めた。
「そのビラには、我々が詐欺行為を働いているかのような、根も葉もないことが書かれていました。しかし、私たちはそんなことは断じてしていません!」
その瞬間、広場の向こう側から怒声が飛んだ。
「ふざけるな!」
怒りに満ちた中年の男の声だった。
「こっちはな、高い金払ってサービスを受けようと思ってたんだ!騙したのはお前らだろ!」
「そうだそうだ!」
別の市民も拳を振り上げた。
「怪しいと思ったからキャンセルしたんだ!当然だろうが!」
怒りと不信の混じった声が、次々と広がっていく。エドガーは唇を引き結び、なおも続けた。
「……私たちは、決して皆さんを騙してなどおりません」
その声は決して折れなかった。
「どうか……どうか一度、スキルシェアリングサービスを利用してから、私たちを判断してください!」
必死の呼びかけだった。
――だが……
「もう、いいよ」
「そんなの、信用できるわけないだろ」
「言い訳するな」
冷たい声があちこちから漏れる。
市民たちは動こうとしない。視線を逸らし、重い足取りでその場を離れようとする。
一度失われた信頼を取り戻すことが、どれほど困難か。
人々の不安と不信を覆すことが、どれほど骨の折れることか。
(これが……現実か)
エドガーの手が震えた。
それでも、絶対に諦めたくはなかった。
――その時だった。
横から拡声器を奪うようにして、ヴィエナがエドガーの手からマイクを取った。
「今、聞いてくださっている皆さんだけの、特別なご案内です!」
ヴィエナの声は、迷いなく、透き通るように広がった。
「期間限定で!今日から10日間──スキルシェアリングサービスを無料でお試しいただけます!」
エドガーは呆然とした。
「ヴ、ヴィエナ……!?」
横で見守っていたソフィアも、驚きに目を見開いた。
(……まさか、勝負を放棄したのか?)
ソフィアの胸に、そんな疑念すらよぎった。
だが、ヴィエナは真剣だった。
「10日間、無料でお試しください!」
ヴィエナは叫ぶ。
「この間に、スキルを借りたり、講義を受けたり──自由にサービスを体験してもらって構いません!もし、使ってみて“これはダメだ”と思ったら……お代は一切いただきません!」
彼女は続けた。
「時間は限られています。たった10日間です!ですが、この10日間だけでも、きっと──私たちの真意を知ってもらえるはずです!」
ヴィエナの声が、必死に、人々の心に飛び込もうとしていた。
群衆の中から、誰かが呟いた。
「無料なら、詐欺かどうか試せるし……損はないってことか?」
「利用してみるわ!」
「私も乗った!」
次々に、肯定的な声が広がり始めた。
不信の影が、少しずつ、ほんの少しずつではあったが──和らぎ始めていた。
エドガーは、ヴィエナの横顔を見た。
彼女は汗をかきながら、それでも強く、まっすぐに前を見据えている。
(ヴィエナ……)
胸の奥が、熱くなる。
彼女は、勝負を捨てたわけではなかった。
スキルシェアリングサービスの運命を賭けた、彼女なりの「本気」の戦い方だった。
「よし!」
エドガーは息を吸い込んだ。
「みなさん!」
拡声器を再び持ち、ヴィエナに続く。
「ご利用いただけるスキルや講義の一覧は、広場に掲示しております!詳しい説明を受けたい方は、広場中央のテントにお越しください!」
「私たちは、誠心誠意──皆さんの力になります!」
街に、少しずつ、活気が戻っていく。
ヴィエナにとって負けられない戦いは、まだ始まったばかり…
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