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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
57/75

第055話 誤解よ解けろ

新連載

白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?

明日の月曜日更新予定!


「みなさん、聞いてください!」

拡声器を握りしめ、エドガーは緊張しながら声を張った。


「私はウェルナー公爵家のエドガー・ウェルナーです!」


広場の一角、通信室に設置された巨大な拡声器から、エドガーの声が街中に響き渡る。


「なんだ?誰だ、あの声……?」


道を歩いていた人々が立ち止まり、周囲がざわつき始めた。子供を連れた母親、買い物帰りの老人、荷車を引く商人たち──様々な人々が興味深げに空を仰ぎ、拡声器の方を見上げた。


エドガーは大きく息を吸い、続けた。


「先日、この街で──私たちのスキルシェアリングサービスに関して、怪しいビラがばら撒かれました!」


言葉に力を込める。

人々の耳が、少しずつ彼の声に傾き始めた。


「そのビラには、我々が詐欺行為を働いているかのような、根も葉もないことが書かれていました。しかし、私たちはそんなことは断じてしていません!」


その瞬間、広場の向こう側から怒声が飛んだ。


「ふざけるな!」

怒りに満ちた中年の男の声だった。


「こっちはな、高い金払ってサービスを受けようと思ってたんだ!騙したのはお前らだろ!」


「そうだそうだ!」

別の市民も拳を振り上げた。


「怪しいと思ったからキャンセルしたんだ!当然だろうが!」


怒りと不信の混じった声が、次々と広がっていく。エドガーは唇を引き結び、なおも続けた。


「……私たちは、決して皆さんを騙してなどおりません」

その声は決して折れなかった。


「どうか……どうか一度、スキルシェアリングサービスを利用してから、私たちを判断してください!」


必死の呼びかけだった。

――だが……

「もう、いいよ」

「そんなの、信用できるわけないだろ」

「言い訳するな」


冷たい声があちこちから漏れる。

市民たちは動こうとしない。視線を逸らし、重い足取りでその場を離れようとする。


一度失われた信頼を取り戻すことが、どれほど困難か。

人々の不安と不信を覆すことが、どれほど骨の折れることか。


(これが……現実か)


エドガーの手が震えた。

それでも、絶対に諦めたくはなかった。


――その時だった。

横から拡声器を奪うようにして、ヴィエナがエドガーの手からマイクを取った。


「今、聞いてくださっている皆さんだけの、特別なご案内です!」


ヴィエナの声は、迷いなく、透き通るように広がった。


「期間限定で!今日から10日間──スキルシェアリングサービスを無料でお試しいただけます!」


エドガーは呆然とした。

「ヴ、ヴィエナ……!?」


横で見守っていたソフィアも、驚きに目を見開いた。

(……まさか、勝負を放棄したのか?)


ソフィアの胸に、そんな疑念すらよぎった。


だが、ヴィエナは真剣だった。


「10日間、無料でお試しください!」

ヴィエナは叫ぶ。


「この間に、スキルを借りたり、講義を受けたり──自由にサービスを体験してもらって構いません!もし、使ってみて“これはダメだ”と思ったら……お代は一切いただきません!」


彼女は続けた。


「時間は限られています。たった10日間です!ですが、この10日間だけでも、きっと──私たちの真意を知ってもらえるはずです!」


ヴィエナの声が、必死に、人々の心に飛び込もうとしていた。


群衆の中から、誰かが呟いた。

「無料なら、詐欺かどうか試せるし……損はないってことか?」


「利用してみるわ!」

「私も乗った!」


次々に、肯定的な声が広がり始めた。

不信の影が、少しずつ、ほんの少しずつではあったが──和らぎ始めていた。


エドガーは、ヴィエナの横顔を見た。

彼女は汗をかきながら、それでも強く、まっすぐに前を見据えている。


(ヴィエナ……)


胸の奥が、熱くなる。

彼女は、勝負を捨てたわけではなかった。


スキルシェアリングサービスの運命を賭けた、彼女なりの「本気」の戦い方だった。


「よし!」

エドガーは息を吸い込んだ。


「みなさん!」

拡声器を再び持ち、ヴィエナに続く。


「ご利用いただけるスキルや講義の一覧は、広場に掲示しております!詳しい説明を受けたい方は、広場中央のテントにお越しください!」


「私たちは、誠心誠意──皆さんの力になります!」


街に、少しずつ、活気が戻っていく。


ヴィエナにとって負けられない戦いは、まだ始まったばかり…

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