第054話 大胆なミランダ
新連載は、月曜日更新予定です。
「まずは……キャンセルした人々の誤解を解くことが最優先よ」
街の広場から戻ったヴィエナが、迷いなく言い放った。
その言葉に、エドガーとソフィア、ミランダが顔を上げる。
「でも……どうやって?」
エドガーが眉をひそめる。
「一人一人に説明して回るには、時間がかかりすぎる。ましてや誤解はすでに広がってしまっているんだ」
「そうね……」
ヴィエナは唇を噛んだ。
「でも、何か方法はないかしら。キャンセルした人たち──彼ら全員に、同時に私たちの声を届ける方法……」
そのとき、ソフィアが手を上げた。
「それなら……街に設置されている拡声器を使ってみるのはどうだ?街の広場や大通りに設置されているだろう」
「それね!」
ヴィエナの瞳が輝きを取り戻す。
「拡声器を使えば、街中に一斉に声が届けられるわ。通信室に行って、使用許可をお願いしてみましょう」
「前にピアノの演奏会を告知した時に使ったことがある。場所は知ってるよ」
ソフィアが静かに頷いた。
「案内してください、ソフィアさん」
――そして一同は通信室へと向かった。
街の中央行政棟の一角にある通信室は、厳重な扉で守られていた。情報操作の危険があるため、出入りには厳しい審査が必要とされる。
「失礼します」
エドガーがノックをし、扉を開いた。
「街の放送用拡声器を使わせて頂けませんか?」
通信室の中にいたのは、真面目そうな眼鏡の職員だった。彼は一同を見るなり、顔をしかめる。
「もしや……君たちは、最近この街で“怪しいサービス”を始めた連中ではないか?」
その言葉に、空気が一気に緊張する。
「違います!」
エドガーがすぐさま反論した。
「確かに悪い噂が広まっていますが、それは全て誤った情報です。私たちのサービスは……」
「だとしても、です」
職員がエドガーの言葉を遮った。
「少しでも疑いのある者に、街全域へ発信する手段を渡すことはできません。混乱を助長するリスクがある」
(……そらそうよね)
ヴィエナは内心で呟いた。
職員としては当然の判断だ。真実を訴えたいという気持ちだけでは、公共のツールを使う理由にはならない。
「お久しぶりです」
その時、ソフィアが一歩前に出て、優雅に一礼した。
「ソフィアです」
職員の表情が一瞬和らいだ。
「……ソフィア様。ご無沙汰しております。まさか、あなたもその“商業を立ち上げたグループ”の一人だったとは……」
「はい。ですが、私たちはただ……誤解を解きたいだけなのです」
ソフィアの声は静かで、けれど芯があった。
「今、広がっているのは根も葉もない噂です。私たちはその誤解を解くため、正しい情報を伝えたいだけ──」
「ですが……」
職員の視線が揺れる。
「いくらソフィア様とはいえ、放送を許可するには上の許可が……」
「すみません」
割って入ったのはミランダだった。彼女は一歩進み、前髪をかき上げると、にっこりと微笑んだ。
「おや……?」
職員が不意を突かれたようにまばたきをする。
「あなたは……ミランダ様……お、お美しい?」
「お兄さん、カッコいい♡」
ミランダは胸元を軽く押さえ、なぜか色っぽい声で囁く。
「拡声器、貸してくれたら……もっとカッコよく見えちゃって……私、もうおかしくなっちゃうかも……」
「ど、どうぞお使いください!!!」
職員が椅子から立ち上がり、資料をガサガサと探し始めた。
「今すぐ準備しますので、こちらへ!」
「……」
その様子を見ていた一同は、沈黙に包まれた。
(なんて、ひどいやり方だ……)
誰もが心の中で同じことを思った。
だが、それ以上何も言わなかった。
そして、効果は抜群だった。
ミランダが振り返り、にっこりと皆にウィンクする。
「ふふ。勝てば官軍って、こういうことでしょ?」
こうして、街中に声を届ける準備が整った。
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