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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第053話 落ちた指揮

新連載の白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?

こちらも別の作風ですが、読んで頂からと幸いです。


評価はまだ9話の新連載にこの作品は流れてしまいました。


シュティシア伯爵領。

中立にして、ヴィエナたちの領地から等しくアクセスしやすい場所にあるこの領で、緊急の会議が行われていた。

集まったのは、ヴィエナ・エドガー・ソフィアの三人。

顔には、深刻な色が浮かんでいる。


「……最悪の事態だな」

重たい沈黙を破ったのは、エドガーだった。


彼は目の前の地図と顧客リストに目を落としながら、眉をひそめる。数日前まで好調だったヴィエナのスキルシェア事業が、今では悪評とキャンセルで崩壊寸前。しかもその背後には、アルバート家の影がちらついていた。


「……良い案は無いですか?」

ヴィエナが苦しげに口を開いた。

「このままだと……あのリリア嬢にやられたまま、負けちゃいます」


けれど、返ってくる言葉はなかった。誰もが勝利を確信していた分、落差はあまりに大きい。沈黙だけが部屋を支配する。


「……アヌビスは、この商戦はどうでもいいそうだ」

エドガーがぽつりと呟いた。


貴族の暮らしを手に入れた今、商戦に興味はなくこの場にアヌビスの姿はない。


静まり返る会議室。そのとき、場を和ませるように明るい声が響いた。

「なら、キャンセルされたお客様に、直接話を聞きに行ってみるのはどうでしょう?」


ミランダだった。


「まずは状況をきちんと把握して、それから対策を考えるのです。私の推しのヴィエナ嬢なら、きっとそう言いますわ」


その言葉に、ヴィエナの瞳が揺れる。


(……そうよ。私は、どんな時でも人の声を無視しないって決めたんだ)


「……ミランダの言うとおりよ」

ヴィエナは立ち上がり、真っ直ぐに皆を見渡した。


「街に出て、話を聞いてみましょう。真実を知るために」


すぐに街へと足を運んだヴィエナたち。

彼らが訪れたのは、スキルシェアサービスに協力的だったコレスニックの広場だった。


だが──数日前とは空気がまるで違った。


「……あれ、あの人たちじゃない? 詐欺師集団のヴィエナ嬢達よ」


「本当だ……よく堂々と出てこられるね」


ざわ……と人々の視線が集まる。耳元で囁かれる言葉が、ヴィエナの胸を深く刺した。


「なっ……」

ソフィアが絶句する。エドガーも眉をひそめ、ミランダは目を丸くして周囲を見渡した。


「数日前まで、あんなに感謝されてたのに……」

ミランダが呟くように言う。


「すみません」

エドガーが一人の市民に声をかけた。


「今の話ですが……詳しく聞かせてください。私たちのサービスについて、何が……?」


声をかけられた中年の男性が、やや警戒しながらも答えた。


「最近、街で噂になってるんだよ。『スキルシェアサービス』って言って金だけ取って、ろくな指導もないって。詐欺だってな」


「そ、そんなこと無いですよ……!」

エドガーがすぐさま否定する。


「匿名のビラが出回ってたからね。証拠もついてるって話だぞ。そら信じる人も多いさ」


重苦しい沈黙が再びヴィエナたちを襲う。


「酷いですわね……」

ミランダが、ひどく静かな声で呟く。


「こちらも同じ事をしてやりましょうか? 確か、エムリット領には元海賊の方々がいましたわよね? その人達にアルバート家のお店の悪い噂でも流してもらって……」


「……いえ、それは絶対にしないわ」

ヴィエナがきっぱりと口を挟んだ。


「そんな野蛮な方法じゃ、何も変わらない。結局は、私たちが『同じ土俵』に堕ちるだけ」


目の前の人々は、噂に流されてしまっていた。

それでも、彼らは“本当の悪人”ではない。

不安に、恐怖に、そして損をしたという憤りに突き動かされているだけ。


「……私に、考えがあるわ」

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