第050話 宣伝開始
コレスニック街
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「ここがエドガー様がアヌビスさんをスカウトした街なのね……」
馬車の窓から顔を出しながら、ヴィエナが感心したように言う。
「コレスニック街……私も初めて来ましたわ。ずいぶん活気のある場所なのね」
隣に座るミランダも、珍しそうに窓の外を眺めていた。
馬車が広場に止まり、二人が降り立った瞬間だった。
「えっ、あれ……ミランダ様じゃない!?」
「きゃーっ! 本物!?」
「ミランダ嬢がこの街に!……」
通行人たちが次々と足を止め、瞬く間に人だかりができる。
目を丸くするミランダに、ヴィエナがくすりと笑って言う。
「やっぱり予想通りね」
「ちょっと……恥ずかしいですけど」
ヴィエナとミランダは顔を合わせて頷いた。
続けてミランダは、軽く頬を紅潮させながらも、一歩前に出て人々に向き直る。
「皆さん、どうか聞いてください!」
ピンと伸ばした背筋、美しい声、そして自信に満ちた瞳。
「私が愛用している化粧品を使った、美容講座をこの街で開催いたします!」
「えーっ!?」
「ミランダ嬢のようになれるチャンス!?」
「絶対に行く! 逃すわけないじゃない!」
市民の女性たちの歓声が広場に響き渡る。
その声が収まる前に、ミランダはさらに言葉を重ねた。
「そしてもう一つ。アヌビスの占い師への道──その基礎を学ぶ講座も同時開催いたします! 今なら、彼女が力を込めた特製タロット付き!」
「えっ、うそ!? 占ってもらう側じゃなくて、なる側になれるの!?」
「……これは申し込むしかないでしょ!」
「これで人生変わるかも……!」
群衆の熱気はさらに高まり、興奮の渦が広場を包んでいた。
ヴィエナは少し後ろからその光景を見つめ、思わず口元を緩める。
「やっぱり……ミランダ嬢はすごい。想像以上ね」
(うふふ、光栄ですわ……)
コレスニック街ではこの日、ミランダが広告塔として前面に立ち、次々に講座の宣伝を行った。
ミランダの化粧品講座。
アヌビスの占術体験講座。
ウェルナー家の剣術講習。
そして、ラビアの家庭料理教室──。
多岐にわたるコンテンツが次々に紹介される中、人々の関心は爆発的に高まった。
――なんと一日で予約総額400万ジュールという驚異の売上を記録した。
「やったわヴィエナ!」
ミランダがヴィエナに向かって笑顔を見せ、勢いよくハイタッチを交わす。
「本当にミランダのおかげよ!ありがとう!」
互いの笑顔に、二人はふっと自然と呼び方が変わっていた。
「さ、ヴィエナ。次の街に行きましょうか?」
「うん、ミランダと私が組めば、どんな街でも行ける気がする!」
二人はしっかりと握手を交わし、再び馬車へと乗り込んだ。
馬車は音を立てて走り出し、次の目的地──クラシック街へ向かって進んでいく。
クラシック街
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「……あら、もう到着したのね」
だが、クラシック街の入り口には、すでに多くの人々が集まっていた。
「何でしょう、あの人だかりは?」
不思議そうに言うミランダに、ヴィエナが促す。
「とりあえず、馬車を降りて様子を見ましょう」
二人はそっと馬車を降り、人々をかき分けて前へ進んだ。
すると──その中心にいたのは、見覚えのある二人の姿。
「……エドガー?」
ヴィエナの声に、青年が振り返り、にやりと笑って親指を立てた。
エドガーの隣で──ソフィアが静かに、優しく微笑んでいた。
「ソフィアさん……!」
「ついに……参画してくれることになったんです!」
興奮気味にエドガーが叫ぶ。
「これで、スキルシェアリングサービスに必要な全ての人が揃った。みんなで一緒に、アルバート家を──ぶっ倒そう!」
その声に、ヴィエナも、ミランダも笑顔でうなずく。
それぞれの志と想いが、今ここに一つに重なっていた。
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