第049話 同じ理由
新連載の下記作品が、まだ数話ですがこちらを追い抜きそうな勢いです笑
白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?
「僕に、考えがあります。明日、またここに来ますので……少しだけ、お時間をください」
そう言い残すと、エドガーは勢いよく踵を返し、走り去った。
静寂が残るステージ裏。
ソフィアはその背中を、ただ静かに見送っていた。
──あんな情熱的な人は、久しぶりだ。
ピアノを聴く機会が無い人にも届けませんか?その彼の言葉が、心のどこかに小さな火を灯した気がしていた。
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シュティシア伯爵領
「ミランダ嬢、あなたの力を貸してください」
穏やかな声でそう言ったのは、ヴィエナだった。
父と書斎で話を交わした後、ルナに飛び乗ってシュティシア伯爵領へ向かったようだ。
レースの施された優美なティーテーブルの向かいで、ミランダは少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「スキルシェアリングサービスのことでしょう?できる限りの協力は以前もお約束しましたわ」
「今回は、もう一歩、踏み込んだお願いなんです」
ミランダは、再び紅茶に口をつけた。
「もう一度、お願いに来るなんて、何か特別な理由があるのですか?」
「貴方に、宣伝をお任せしたいのです」
「……宣伝?」
ミランダは小さく眉をひそめた。
「でも、私がヴィエナ嬢のサービスを宣伝しても……効果があるかしら? 熱意は分かりますけど、私は商人ではなく、ただの令嬢ですわ」
「街にビラを貼っても、人々の目に留まるかはわかりません。でも──」
ヴィエナはまっすぐミランダを見つめ、はっきりと言った。
「私が今まで出会った女性の中で、貴方は一番美しい。そんなミランダ嬢が街を歩けば、誰もが振り返り、見とれるはずです。その時に、貴方がビラを持って宣伝すれば……」
「一気に注意を引き、集客ができるってわけですね!」と、側に控える侍女がにっこりと補足した。
「はい!」とヴィエナが力強くうなずく。
ミランダは、一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、頬にじわりと赤みが差す。
「そ、そんな……一番美しい、だなんて……っ」
(めちゃくちゃ照れてる……)
侍女とヴィエナが小声で目を見合わせた。
「うぅ……憧れのヴィエナ嬢に褒められるなんて、慣れていないんですのよ……でも、ヴィエナ嬢にそう言っていただけるなら……そのリクエスト、喜んでお受けいたしますわ」
ヴィエナがほっとしたその時──
「こんこん」
ドアの外から執事の声が届いた。
「ミランダ様、ご来客です」
「まあ……誰かしら?」
不思議そうにミランダが、首を傾げる。
1人の青年が部屋に入室した。
「初めまして。ウェルナー公爵家のエドガーと申します。ミランダ嬢に、宣伝のお願いがあり本日参りました」
その声に、ヴィエナは目を丸くした。
「エドガー様……?」
「えっ? ヴィエナ?どうしてここに……?」
エドガーは驚いた様子でヴィエナに問いかける。
「同じく宣伝が理由です」
そう答えたヴィエナに、エドガーはぽかんとしたあと、少し照れくさそうに笑った。
ミランダは楽しげに微笑んで口を開く。
「はい。ヴィエナ嬢から宣伝の依頼を快くお引き受けしたところですわ」
「本当ですか!? それは……ありがたいです!」
エドガーの顔が、ぱっと明るくなる。
「これで……ソフィアさんも仲間に引き入れることができる」
そのつぶやきに、ヴィエナはふっと目を細めた。
「これで全てが整うわね。明日から各地の街で、ミランダ嬢と一緒に宣伝活動を行うわ」
ミランダはそっと紅茶を置き、立ち上がる。
「では、衣装は派手めなものでいきましょうか。せっかく注目を集めるなら、思い切ってやりますわよ」
「頼もしい……!」
エドガーは感動に目を輝かせる。
「よし。僕は明日、必ずソフィアを一員に迎え入れるよ!」
彼の決意に、部屋にいた全員が、静かにうなずいた。
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