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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
44/75

第043話 取引の代償

毎日投稿継続中(44日目)


新連載月曜日7話更新です。

力入れてるので読んで頂からと幸いです。


「貴族になりたいって……そ、そんな事、不可能ですよ」


アヌビスの提案に、エドガーは思わず声を荒げた。常識では到底あり得ない要求。

(何を言っているんだ、この占い師の婆さん)――そう思ったが、彼女の真剣な眼差しに、軽率な否定が喉に引っかかった。


アヌビスは紅い唇を歪めて微笑んだ。

「だから、それを何とかしなさいって言ってるのよ。」

続けて、アヌビスは自信満々な態度でタロットに手をかざし呟いた。

「では、占います」


彼女は無造作にタロットを手に取り、さっと数枚をめくると、さも見えたかのように首を傾けた。


「えーっと、私を貴族として迎え入れないと……アルバート家に大敗する。みたいです」


(ほ、ほんとなのかこの婆さん……)

思わず心の中で呟いたエドガーだが、すぐにその考えが顔に出てしまったのか、アヌビスは、まるで遊び半分の戯れのように、唇の端を上げて微笑んだ


「まあ、別に無理ならいいわよ。勝負に負けても良いのならね。領地を取られ、王様に呼び出されて……そうね、公爵家から伯爵家に降格……なんてこともあるかも」


彼女は、悪戯を仕掛ける子供のようにエドガーの動揺を楽しんでいる。


「も、もし貴方を迎え入れたら……勝負には、勝てるのですか?」


エドガーの問いに、アヌビスは満足げに頷いた。まるで聞きたかったのはそれよと言わんばかりに。


「そうなるでしょう」

自信満々に胸を張るその姿に、エドガーは何も言えず、ただ沈黙した。


アヌビスはエドガーの迷いを見逃さなかった。その沈黙の中にある葛藤と、理性との戦いに。


やがて、エドガーは顔を伏せ、吐き出すように言った。

「貴族には迎え入れる事は出来ません。仮に占いを教えて頂いたとしても……商業戦には関係ありませんから」


(くそ……こいつ、気づきおった)


アヌビスは歯噛みしつつも、表情は崩さなかった。

だが、確かに彼は核心を突いたのだ。占いの技術を得たところで、即座に商業に応用できるものではない――それを見抜いた彼に、安易な言葉は通用しない。


「確かに、坊やの言うとおり。負けることが、あなただけの問題なら……それでいいんじゃないかしら?」


アヌビスの声は柔らかく、だが鋭かった。まるで刃物のように、エドガーの心を突き刺す。


「相方の領地は?民は?従者たちは?彼らの未来も、あなたの判断ひとつで左右されるのよ」


その一言に、エドガーの目に迷いが宿った。心の中で、様々な顔が浮かんでは消える。ヴィエナ、父、民たち、そして街の人々。


やがて、彼は深く息を吐き、静かに言った。

「数日……お時間をください。父に相談しないと……私だけでは、決められません」


アヌビスは彼をじっと見つめると、わずかに頷いた。

「そう。また気が変わったら、いらっしゃい。私はここにいるわ」



コレスニック街のアヌビスの元を後にし、夕暮れの街道を歩くエドガーの足取りは重かった。

だが、今はまだ答えを出すには早い。彼の心には、様々な声がこだましていた。

(とりあえず、領地に帰ろう)

 

――だが、彼がウェルナー領の門前にたどり着いた時、その静寂を破るように、2人の人影が彼を待ち構えていた。


アルバート家のゴードン公爵とアイクだった……


 

「……お久しぶりです。ゴードン殿、アイク殿」

エドガーは眉をひそめながら声をかけると、ゴードンがにやりと笑った。

「ええ、お久しぶりですな」


「何故ここに?」

エドガーが2人を敵対視するように視線を送りながら、疑問をぶつけた。


すると、アイクが続けた。


「本日はですね、我々が勝利を確信したため、“降参”を勧めに参上いたしました」


彼らの言葉に、エドガーは息を呑んだ。


(降参……だと?)

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