第042話 アヌビス
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月曜日更新致します。
かなり力入れてるので読んでもらえると嬉しいです。
アヌビスは一瞬、隣に立つエドガーに向かって冷ややかな笑みを浮かべながら、こう口を開いた。
「あなた、貴族でしょ? 私には分かるわ」
(そんなの、服装を見れば分かることだ。何も驚くことはない)エドガーは心の中でそう呟いた。
「ええ、今日は、あなたを探してこの街に来ました」
アヌビスは鼻で笑うように肩をすくめ、冷めた口調で返す。
「どうせあなた十分幸せでしょ?貴族を占う必要なんて無いわ」
その声には、どこか嘲笑とも取れる余裕が滲んでいた。
占い師として、これまでに数多くの貴族や商人が自分の悩みを抱えて訪れてきた。アヌビスからするとエドガーもその1人に過ぎなかった。彼女の無関心な態度が、エドガーをさらに孤独に感じさせるのだった。
「い、今、少し悩みがありまして……貴方のことを、もっと知りたいんです」
エドガーの瞳は、真剣な思いとともに、占い師への期待を映し出していた。アヌビスは、わずかに眉をひそめながらも、口角を引き上げて言葉を発する。
「なら先に、自分のことを話しなさいよ」
エドガーは顔を上げ、恐縮したように続けた。
「それはそうですね。失礼しました……」
アヌビスはため息混じりに笑い、重々しい空気を一変させるかのように宣言した。
「まあいいわ。私は占い師。こちらで勝手に探らせてもらうわ」
彼女は古びたタロットカードの束に手を伸ばし、そのカードを乱雑に並べながら、念を込めてカードを一枚一枚めくっていく。
「さあ、これよりタロットに私の念を込め、あなた今を映し出すわ。」
少しの静寂が訪れた後、アヌビスはふとクスッと微笑む。
「貴方、少し前に好きな女に振られたのね」
その一言に、エドガーは思わず息をのみ、驚きと痛みが交じった表情を浮かべる。
さらに、彼女は低い声で続けた。
「そして、今はアルバート公爵家と喧嘩中……商業戦に負けたら……あら大変なことになるのね。」
「な、何故そこまで……」
エドガーの声は震え、否応なく自分の心の奥が晒されるような感覚に苛まれる。
「こんな簡単な事、私の念を込めた特製の『鏡石タロット』を使うと、誰でも占えるわ」
アヌビスは、冷たくも滑らかな声色で一言放つ。
その声には、長年の経験からの余裕、数多くの宿命を見抜いてきた重みが感じられた。
彼女の指先が、古びたタロットカードにそっと触れると、まるでその一枚一枚が語りかけるかのように、静寂なエネルギーが流れ出す。
「その占いの技術を、ぜひ私に教えてください。費用は、いくらでもお支払いします!」
エドガーの目には、本気で未来を切り開きたいという決意が宿っていた。占い師としての奥深い技術に、金銭以上の価値を賭ける覚悟を示すかのように。
アヌビスはしばらくエドガーをじっと見つめると、ゆっくりと口を開いた。
「うーん、そうねぇ。ならひとつだけ、私の言うことを聞いて貰おうかしら。飲めるなら、私がその占いを教えてあげる」
「その、条件とは何ですか?」
アヌビスの言葉はエドガーの心の奥底に、既にいくつもの疑問と不安が渦巻いていた。
アヌビスはエドガーの瞳をしばらくじっと見つめると、やがて微かに笑みを浮かべ、低い声で宣言した。
「私を貴族として、貴方の領地で暮らせるようにしなさい」
その一言が放たれた瞬間、エドガーの脳裏には、これまで感じたことのない衝撃が駆け巡った。




