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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
42/75

第041話 美しい理由と老婆

毎日投稿継続中(42日目)


新連載は7話目明日投稿です。


「こちら、ささやかですが、お土産です」


ヴィエナは静かに箱をミランダへ差し出した。

中には、エムリット領で作られた真珠のネックレス、厳選された化粧品、そしてウェルナー領の薬草を調合した特製の肌薬が並んでいる。


「まぁ……なんて美しい……ありがとうございます。どれも見たことのない品ばかりですわ」


ミランダは手に取った真珠のネックレスを頬にあて、嬉しそうに、喜びの瞳で微笑んだ。


「ところで……本日は、どういったご用件で?」

(エムリット嬢が、私に会いに来るなんて……信じられない。目を合わせるのも、少し恥ずかしいくらい)


「実は……ミランダ嬢にお聞きしたいことが、たくさんありまして」

ヴィエナは、目の前の“人形姫”をまっすぐに見つめて置かれている現状を語った。


「なるほど、アルバート家が優勢な状況で、ヒントを見つけるために私の所へ来たというわけですね。」


ヴィエナは涙目で頼み込んだ。

「ええ。劣勢な状況を打破する為、この国の1番に触れる必要があると考えました。だから、全てを知りたいんです。化粧水や化粧道具、朝食まで色々と……」


ミランダは一瞬驚き、次いで頬を赤らめた。

(そ、そんな事まで憧れのヴィエナ嬢に聞かれるなんて……)

「ふふ……でしたら、侍女のアスリを呼びましょう。私より、よく分かっている子ですわ」


ミランダは小さな鐘を鳴らし、ほどなくして一人の侍女――アスリが部屋に現れた。


「ミランダ様、何か?」


「アスリ、私の美容や朝の習慣について教えて差し上げて」


「かしこまりました」


アスリは整った姿勢で言葉を続ける。

「ミランダ様は、朝は野菜ジュースと軽めのパン、そしてコーンスープをお召し上がりになります。化粧道具に関しては特にこだわりはなく、日によって変えておりますが、基本的には私に任せていただいております」


「化粧水などは?」


「……ほとんど使用されておりません。水洗顔を基本とし、乾燥時に少量のオイルを使用する程度です」


(それで……この美しさ?…)


ヴィエナは信じられないといった表情でミランダに視線を送る。


「ミランダ様の美しさは、生まれながらのもの。決して飾らないのに美しいその姿が、多くの人々の憧れとなっております。」


(なるほどね……飾らない事で人々からは距離が近く感じる。でもこの圧倒的な美貌が人を惹きつける)

ヴィエナはゆっくりと呟いた。


「でしたら、この化粧品と真珠のネックレスを使って、一度だけで構いません。街を歩いていただけませんか?」


「街を……?」


「エムリット領で開発したこの化粧品は、ウェルナー領でしか採れない薬草をもとに、肌への刺激を最小限にしつつ、美白と保湿に優れた効果を持たせています。試していただけるだけでも、ありがたいです」

 

ミランダはほんのり笑いながら、言葉を添える。

「……分かりました。私にできることであれば、喜んで!ヴィエナ嬢は、必ずアルバート家に勝つと信じています。あなたは――私の推しですから」


「……ありがとうございます。絶対、勝ってみせます!」


その日のヴィエナは、いつもの不安の奥に、小さく暖かい気持ちで邸を後にした。


得られた情報は、商業へのヒントには全くならないかもしれない。

(エドガー様がアヌビスに会いに行ってくれている。収穫話を信じよう)


だが、この出会いが後の展開に大きく関わることを、誰も知らなかった。


――――――――――――――――――――――――


場所は変わって、雑踏に包まれたコレスニック街。


「“老婆娼館へようこそ”兄さんなら安くするよ!」

「くっ……また違った……これで5度目…アヌビスは何処にいるんだ」

エドガーは半泣きの表情で、派手な衣装の老婆が集まる建物を走り抜けていた。


彼が探しているのは、占い師“アヌビス”。

背は低く、髪はぼさぼさの白髪。着ているのは、ほつれた布のようなボロボロの服――そんな老婆が、街のはずれの人だかりに紛れているらしい。

だが、エドガーはアヌビスを見つけることが出来ず、歩く力は弱くなり、途方に暮れていた。


空も暗くなりかけている。


その時――喧騒の中心に人が群がっているのを見つけた。

「次、私を占って!」「順番守りなさいよ!」「ちょっと押してるのは誰よ」


(もしや…)

「すみません、通ります!」

人々の声が入り混じる中、エドガーは群れをかき分け、中心を覗き込む。


そこにいたのは――

噂通り、髪は白髪混じりでぼさぼさ、服はところどころ裂け、靴もボロボロな老婆だった。だが、その目だけは鋭く、何かを見透かしているようだった。

「貴方がアヌビス?」


「……あら? 呼んだかしら?」

老婆は、にたりと笑う。


「貴方、綺麗な顔してるわね。どう? 結婚しない?」


(こ、この人が国1番の占い師?……やばそうな人すぎる!)


コレスニックの空にエドガーの心の悲鳴が響き渡った。

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