第40話 ミランダ嬢
毎日投稿継続中(41日目)
シュティシア伯爵領
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居館には、花々と光が溢れ、その中心に佇む一人の令嬢
――ミランダ・シュティシア。
金糸のような髪は光を受けてやわらかに波打ち、編み込まれた花飾りが春の香りを漂わせる。
翡翠を溶かしたような深みのある瞳は、見つめる者の心をふわりと包み込むようで、誰に対しても決して刺々しさを見せることはない。
真珠のような透き通る肌と、絵に描いたような端整な顔立ち。細く長い首筋にかかる髪先さえ、舞うように美しい。
姿勢は隙なく優美で、立ち姿一つで見る者の目を奪ってしまう。
「まるで夢を見ているようだわ……」
「どうして……同じ時代を生きているのに、ここまで美しいの?」
周囲の人々はそう囁きながら、足を止めずにはいられない。
彼女はまさに“人形姫”。
その名に相応しい、時代の理想を体現した存在だった。
「いつも、髪を整えてくださってありがとうございます」
ミランダは、髪結いの女性に、微笑みかけながら続けた。
「次は……私があなたの髪を結ってみたいの。もしよければ、結び方を教えてもらえませんか?」
その申し出に、髪結いの女は驚き、手が震えた。
「わ、私なんかでよければ……」
緊張のあまり、ミランダと目を合わせることすらできない。
そんな時――
コン、コンと控えめなノック音。
「ミランダ様、ご来客です」
執事がドアを開け、恭しく告げる。
「来客? 今日、そんな予定あったかしら」
ミランダが不思議そうに眉をひそめる。
「エムリット伯爵家の、ヴィエナ嬢という方が……」
「――あの、話題の?」
ミランダは瞳を見開く。
(誰にも媚びず、冷静沈着……しかも、今はアルバート公爵家と争っているという、あの……)
「通してちょうだい」
すぐに立ち上がり、裾を翻した。
⸻
大広間に通されたヴィエナは、深く一礼をする。
「突然の訪問、失礼いたします。ヴィエナ・エムリットと申します」
「存じておりますわ。ミランダ・シュティシアと申します」
ミランダは周囲を一瞥し、にこやかに笑いながら口を開いた。
「ねえ、ちょっと、部屋を外してくれる?」
控えていた侍女を部屋から出るようにミランダは伝えた。
「で、ですが……初対面でお二人きりは……」
「いいから、いいから」
ミランダは悪戯っぽくウインクしながら、侍女を部屋の外へ促した。
大きな部屋に残されたのは、ヴィエナとミランダのふたりだけとなった。
「あ、あのぅ……」
行動したものの、ヴィエナは学園で令嬢に蔑まれた経験から、貴族令嬢と対面するのが苦手。
ヴィエナが戸惑いながら声を発すると、ミランダは迷いなくすーっと距離を詰めてくる。
その柔らかな香りと、瞳の煌めきが近くなりすぎて、ヴィエナは思わず身を引きそうになった。
(ち、近い……!)
「私……ずっと、ヴィエナ嬢に憧れておりましたの!」
ミランダの声は、まるで秘密を打ち明けるように甘く、真剣だった。
「……憧れ?」
戸惑うヴィエナに、ミランダは勢いよく頷いた。
ミランダは瞳を輝かせ、手を握ってくる。
「はい! いつも街で噂になってますの。エムリット領に、どんな相手にも臆せず、果敢に立ち向かう聡明な美女がいるって。お会い出来て光栄です。」
「あなたのように強くて、美しい方……本当に尊敬しております」
ヴィエナは思わず言葉を失った。
(国で1番美しい人が、私に……?)
思いもよらない、好印象で国で1番の美貌の令嬢に会うことができたヴィエナ。
商業に結びつけることが出来るか、それはまだ誰も知らない。
決戦終了まであと52日




