第004話 返答
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【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】
お茶会が始まると、ユリウスはヴィエナに対して巧みに会話を進め、彼女の反応を探ろうとした。
しかし、ヴィエナは冷静に応じ、彼の意図を見透かすような眼差しを向けた。
領地を改革をしたらすぐに縁談の話など、
自分の能力が目的の政略結婚で、ネガティヴなイメージしかヴィエナは湧かなかったからだ。
ユリウスはまず、彼女の領地改革の成功を持ち上げることから始めた。
「ヴィエナ嬢の領地改革の話を伺いましたよ。素晴らしい取り組みですね。」
柔らかな微笑みを浮かべながらも、その目にはどこか試すような色が宿っている。
しかし、ヴィエナは警戒を解かなかった。
「ありがとうございます。」とだけ短く返し、ユリウスの次の言葉を待つ。
彼は続けた。
「ですが、女性がそのような重責を担うのは、少し無理があるのでは?」
まるで試すような言葉。
これまでの経験からすれば、この一言で大抵の貴族令嬢は「いえ、そんなことは……」と謙遜するものだった。
だが、ヴィエナは違った。
彼女の表情に、一瞬だけ影が差す。
そして、まっすぐにユリウスを見据えながら静かに言った。
「私が好きでしていることです。領地の人々に笑顔が戻ると、自分も幸せな気持ちになります。そこに性別は関係ありません。」
その言葉に、ユリウスの口元から笑みが消えた。
彼は心の中で舌打ちをし、次の一手を考える。
「なるほど、では、もし私と手を組めば、さらに多くのことが成し遂げられるのでは?」
そう言いながら、彼はにやりと笑みを浮かべた。
「私の家柄と資源を活用すれば、エムリット家の発展も加速するはずです。」
まるで、ヴィエナがその申し出を断ることなどあり得ないと言わんばかりの自信。
しかし、ヴィエナの答えは即答だった。
「申し訳ありませんが、私はすでに自分の道を歩んでいます。」
その言葉には、明確な拒絶の意志が込められていた。
ユリウスは驚き、そして不快感を覚えた。
彼はこれまで、多くの女性を手玉に取ってきたが、ヴィエナのような反応は初めてだった。
お茶会が終わる頃、ユリウスは明らかに焦りを感じ始めていた。
ベルハルト辺境伯領の発展のために、ヴィエナとの婚約を成立させるよう父から強く命じられていたからだ。
傷モノ令嬢が、自分からの縁談を断るはずがない。
そう思っていたのに……
「ヴィエナさん、あなたのような方と一緒に仕事ができ、さらに一緒に暮らせれば、どれほど幸せなことでしょう」
とっさに出た付け焼き刃の言葉を置いてユリウスは帰っていった。
◆◇◆
数日後、ヴィエナはガイゼルに対して、ユリウスからの求婚を断る意向を伝えた。
「父上、ユリウス殿からの求婚をお断りしたいと思います。」
ガイゼルは驚いた顔をした。
「本当にいいのか?お前が婚約するのは難しいと、自分でも分かっているだろう?」
「今後、縁談の話が来ることはないかもしれんぞ」
ヴィエナはまるで、とうの昔に覚悟を決めていたような表情で口を開く。
「はい、重々承知しております。それに、今後も縁談の話は断っていただいて構いません。」
「ですが、お父様。」
「なんだ?」
不思議そうにガイゼルが尋ねる。
「公爵家のマテリウス領、伯爵家のアルセイン領、公爵家アルバート領から縁談の話があれば、お茶会を開いていただきたいです。」
ガイゼルが理由を聞き返す間もなくヴィエナはすぐに書斎を後にした。
ガイゼルはしばらくの間、ヴィエナの背中を見送った後、ふっと小さく笑った。
(……本当に、強くなったな)
ガイゼルは逞しく育つヴィエナが感慨かった。
ヴィエナはその日から、領地改革にさらに力を入れるため、読書や習い事に励んだ。
だが、ふとした瞬間――何かを忘れているような気がした。
(……何か、大事なことを……)
机の上の予定表に目を向けた。
その瞬間、ヴィエナの顔から血の気が引いた。
明日は、学園の社交会。
彼女が、苦い思い出しかないあの学園の社交界へ、再び足を踏み入れなければならない日だった。