第038話 策謀
毎日投稿継続中(39日目)
新連載は体調不良のため本日おやすみします。
ヴィエナは、書斎にこもり、経済学の専門書を手に取り、ページをめくっていた。
机の上には、散らばる資料とメモが無造作に積み重なり、彼女の焦燥感と決意を物語っている。
「野菜ドリンクの販売か……」と、ヴィエナは独り言を呟く。だが、すぐに考え直す。
(いや、アルバート家の領地の方が野菜の生産量は多い、模倣されれば一瞬で市場を奪われる恐れがある……」
次に目を向けたのは、住居の建て替えやリフォーム業だった。しかしその案も、思えば時間を要しすぎる上、即効性に欠けると判断せざるをえなかった。
ヴィエナは、頭を抱えながら考え続ける。
短期間で大きな利益を生み出す商業は……。化粧品や高級ブランド品も一考の価値はある。しかし、歴史のない商品を世に売り込むには、何か特別なフックが必要だわ。誰が買ってくれるのか、どんな付加価値をつければ……
ため息が漏れる中、エリザに声をかけた。
「エリザ、あなたは何か思いつく?」
エリザは一瞬考え込むと、柔らかな声で答える。「そうですねぇ、皆さんの強みが上手く活かせたら良いのですが……」
ヴィエナは眉をひそめながら問い返す。「強み?エムリット家とウェルナー家の強みって、一体何だと思う?」
エリザは頭を悩ませた末、口を開く。「ヴィエナ様は、何と言っても負けん気の強さが最大の武器です。情熱と決意は、誰にも負けないと思います。そして、ウェルナー家の皆さんは、その柔軟性と長年培った騎士業が大きな強みでしょうか。」
(私は気持ちだけが強みなのね……笑)
その時、書斎の扉が激しくノックされ、父ガイゼルの厳しい足音が響いた――
ヴィエナは驚きながらも、慌てて扉を開ける。
「お父様、どうなさいましたか?」
ガイゼルは顔色を青ざめさせながらも、息を整えて告げる。「た、大変だ。アルバート領が……ケーキ店を一気に3店も街中に出店した…」
ヴィエナはその言葉に耳を疑った。
「な、なんですって?こんな早く動くなんて……」
アルバート領はすでに、この勝負の前から、密かにケーキ屋の出店計画を練っていたのでは…そう感じるような脅威のスピードだった。
ガイゼルはさらに続ける。
「しかも、どの店も季節のフルーツをたっぷり使っていて、たちまちとんでもない行列ができているらしい。これでは、我々の商戦は一方的に流されるばかりだ……」
その一言と共に、部屋の空気は一気に重苦しく沈んだ。エリザの顔にも不安の色が浮かび、ガイゼルは、深い溜息をつきながら呟いた。
「く、ここまでか……もうお終いだ……」
ガイゼルの言葉に、ヴィエナは目を見開き、心の中で激しい葛藤と焦燥感が渦巻いた。自分が選んだ商業戦略が、今や敵の奇襲によって脅かされる現実に直面し、果たして領の未来を守ることができるのか疑問が湧いていた。
しかし、ヴィエナはすぐさま自分の内に秘めた負けん気と、領民への責任感を思い起こす。
彼女は、ウェルナー家の仲間たちの努力が、どれほどこの領を支えてきたのかを再確認する。
「まだ終わりではありません。私たちは、さらなる策を練って絶対に勝たないと。」
ヴィエナは静かに決意を新たにする。その瞳は、苦悩を越えて一筋の光を宿し、領の未来を取り戻すための新たな戦略を模索する覚悟を示していた。
彼女は深く息を吸い込み、再び書斎の机に向かう。
資料の中から、可能性のある商業アイデアの数々を洗い出していく。
エリザの助言を胸に、そしてガイゼルの厳しくも温かい激励を背中に、ヴィエナは再び筆を執る。




