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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第037話 自分勝手

毎日投稿継続中(38日目)


白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?

こちらは土日なのでお休みです。

ウェルナー公爵家とアルバート領の前で別れ、ヴィエナ達は領地に帰っていた。


――――――――――――――――――――――――

エムリット領の大広間。薄暗い照明の中、父ガイゼルの厳しい声が響く。


「おい、何を勝手に1人で決めているんだ!」

ヴィエナは背を丸め、静かに頭を下げる。


昨日、彼女はエムリット領において、父の許可を得ずに一方的に新たな商業の立ち上げを決行していた。

エムリット領の未来と、真珠業と香草を栽培して暮らす市民の生活がかかっているのに、彼女の決断は一方的すぎたのだ。


「私が立ち上げた商業を負けたら取られるだけなので、良いかと思いました。」と、ヴィエナは静かに弁解する。

だが、ガイゼルの怒りは収まらなかった。


「香草を栽培している領地は?そこで働く市民は?まったくお前は、エムリット領の事を本当に考えているのか!」

ガイゼルの声は、冷たくもあり、父親としての重い責任感に満ちていた。

彼は自らの領地を守るため、そして何よりもその民の生活を守るために、厳しく問い詰める。


その瞬間、ヴィエナの心は激しく揺れ動いた。


(父の言うとおりだと思う。私はエムリット領の拡大のためだと思って行動していた……でも実際、あの惨めな復讐心にとらわれていただけだったのかもしれない。もし負けたら、香草の栽培をしてくれている市民の仕事を奪ってしまう。私のその短絡な思いが、彼らの未来を奪うことになるかもしれないなんて……ドレーク達も真珠の養殖を真剣にやってくれている……私は本当にばかだ……)


頑張って仕事をしてくれている人々の顔が頭に浮かぶ。

そんなに簡単に賭けていい存在じゃない。


ヴィエナは静かに涙を流した。頬を伝う涙は、己の過ちと無力さを映し出し、心の奥底にある自分勝手な感情への怒りと後悔が混じり合っていた。


だが、その時、父ガイゼルの厳しい声とは裏腹に、どこか温かい言葉が続いた。


「だがな。ここまでエムリット領を大きくしてくれたのは、ヴィエナ、お前だ。」

ガイゼルは、内心でかつての幼い娘の泣く姿を思い出していた。



「お前の決意の強さを、私は信じる。たとえ今回、商戦に負けることがあっても、親子として、全てを共にするつもりだ。」

ガイゼルの声は柔らかくも力強く、領の未来を担う娘への深い愛情が感じられた。

その一言が、部屋に張り詰めた空気を少しずつ和らげ、ヴィエナの胸に新たな決意を芽生えさせる。


涙が止み、ヴィエナはゆっくりと顔を上げた。瞳の奥に、痛みと後悔、そして決意が輝く。彼女は、これまでの自分の未熟さを痛感すると同時に、父の期待に応えたいと強く思い始めた。


目元を赤くしてヴィエナは強く言葉を放つ。

「分かりました、お父様。私、エムリット領の未来のために、命をかけても勝って見せます!」

その声には、かすかな震えがありながらも、決して揺るがぬ意志が宿っていた。


そしてガイゼルは、最後の一押しのように声を上げた。「アルバート家、そして婚約破棄したあのアイクをぶっ倒してやれ!お前ならやれる。私は信じている!」

その言葉は、ただの怒号ではなく、過酷な現実の中で信頼と期待を込めた、父からの真摯な激励であった。


エムリット領の未来と、香草の香り漂う畑と養殖場の向こう側に広がる市民の笑顔のために、そして何よりも、自分自身を変えるために。

父の熱い言葉と、己の弱さに涙した過去が、新たな力へと変わり、彼女の歩む道に光を差し込むのを感じながら、ヴィエナは深く息を吸い込んだ。


その時、エムリット領の壁に飾られた先代の肖像画が、かすかに光を放つように見えた。そこには、かつて領を守り抜いた偉大な者たちの面影が映り、未来へと続く希望の象徴となっていた。ヴィエナは、父ガイゼルの信頼と、かつての自分の涙に込められた意味を胸に、これからの戦いに挑む覚悟を新たにするのであった。


「エドガー様は、別で商業の案を探してくれている。今すぐ私も探し出さないと!」

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