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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
34/75

第033 感謝と次へ

毎日投稿継続中(34日目)


新連載はかなり力入れているのでよろしくお願いします。

白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?

香水の販売が開始されてから1ヶ月が経過した。ウェルナー領とエムリット領が共同で開発した「生活をワンランクアップさせる」香水は、商業ギルドを通じて国全体に急速に広がり、その人気は街中の話題となっていた。


「今、あの香水、売り切れらしいわよ。」


「予約しておけばよかったわ。」


「プレゼント用にもう一つ欲しかったのに。」


街の至る所で、そんな声が飛び交っていた。

香水は高級品としてだけでなく、日常生活を豊かにするアイテムとして、多くの人々に受け入れられていった。


その頃、エムリット家の当主ガイゼル、娘のヴィエナ、侍女のエリザ、護衛隊隊のロットは、ウェルナー領を訪れていた。


「よくぞお越しくださいました。」ダニエル公爵は深々と頭を下げた。

「この度は、エムリット家のお力添えにより、ウェルナー領は大いに発展いたしました。本当にありがとうございます。」


彼の声には、心からの感謝が滲んでいた。

これまでウェルナー家は主に騎士業に従事してきたが、香水事業の成功により、経済的な安定と領地の繁栄を手に入れることができたのだ。

ダニエル公爵は感極まり、地面に膝をつき、深々と頭を下げた。


「これまで主に騎士業を営んでまいりましたが、香水がこれほどまでに売れたおかげで、騎士に赴く人数を減らすことができそうです。富を築くと同時に、安全も少し増せました。本当にありがとうございます。」


「と、父さん!」エドガーは驚き、父の肩に手を置いた。「どうかお顔をお上げください。」ヴィエナも戸惑いながら声をかけた。


ダニエル公爵はゆっくりと顔を上げ、ヴィエナを見つめた。「ヴィエナ嬢には感謝してもしきれない。あなたの手腕には恐れ入りました。おかげで、アルバート領を超えることができました。」


「アルバート領は、私にとっても特別な存在ですから。」ヴィエナは静かに微笑んだ。


「そうなんです、父さん。」エドガーが口を開いた。「ヴィエナは以前、アルバート家に婚約破棄されているんです。」


「なんと。」ダニエル公爵は驚きの表情を浮かべた。「ヴィエナ嬢のような優秀な方を婚約破棄するとは、アルバート家は見る目がないとしか言いようがない。」


「そこで、一度ヴィエナを連れてアルバート領に挨拶に行き、ヴィエナの功績を言ってやりませんか?」エドガーが提案した。


「面白い、ぜひそうしよう。私の方からアルバート領には手紙を出しておく」ダニエル公爵は笑みを浮かべ、力強く頷いた。


ヴィエナとエムリット家、ウェルナー家は新たな一歩を踏み出すこととなった。香水事業の成功は、彼らにとって単なる経済的な勝利にとどまらず、過去のしがらみを乗り越え、未来への道を切り開く大きな転機となったのである。


「ヴィエナはアルバート家に、どんなことを伝えたい?」


エドガーの問いに、ヴィエナは少し考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開く。


「私は……知りたいんです。」


その瞳には、迷いも、怒りもない。ただ純粋に、自分の気持ちに向き合おうとする意志が宿っていた。


「アイク様に婚約破棄された後、私はとても悔しくて、虚しさでいっぱいになりました。自分がすべて否定されたような気がして……。でも、だからこそ、私は前に進むことを決意しました。」


ヴィエナは拳を軽く握りしめる。


「けれど、アイク様はどうだったのか、それが知りたいんです。」


「……なるほど。」


エドガーは静かに相槌を打った。彼はヴィエナの想いを受け止めながら、ふと考える。


(アイクは、今のヴィエナを見て何を思うんだろうか)


「どうせなら……」


ヴィエナは少し意地の悪い笑みを浮かべた。


「婚約破棄したことを、心の底から後悔してもらいたいですね。」


エドガーはその言葉に苦笑する。ヴィエナらしいと同時に、彼女がここまで強くなったことを実感した。


—後日、エムリット領—


ある朝、一通の手紙がエムリット家に届いた。

送り主はエドガーからだった。


――今度の週末、

アルバート領とお茶をすることになった。

ヴィエナも待ってる。


その手紙を読み終えたヴィエナは、ゆっくりと微笑む。

「よし……やっとここまで来たわ。」


手紙をそっと折り畳みながら、瞳に強い決意が宿る。

「後悔してもらいましょう。」


彼女の前に広がる未来には、もう迷いはなかった。


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