表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
31/75

第31話:香りの未来

毎日投稿継続中(31日目)

厳かな議論が終わり、エドガーとヴィエナ、そしてエリザは、商業ギルドに向かうため馬車に乗り込んだ。

エドガーは静かに問いかけた。


「売り方が悪いとは、どの辺が良くないのだろう?」


ヴィエナは少し考え込むと、丁寧な口調で答えた。


「貴族がおめかしに使う香水というのは、古くから代々受け継がれてきたものでございます。ゆえに、貴族を対象に販売するものではなく、むしろ商業ギルドの利用者に向けて販売すべきでございます。なぜなら、貴族は数が少なく、庶民に比べれば圧倒的に少数派でございますから」


エドガーは軽く頷きながら聞いていたが、ヴィエナの話は続く。


「かといって、ただ市場に並べただけでは、容易には売れにくいでしょう。そこで必要となるのが、印象に残るキャッチコピーでございます」


ヴィエナはやや意気揚々と目を輝かせながら提案した。


『今の生活をワンランクアップさせる』というキャッチコピーはいかがでしょうか?」


エドガーはそれを聞き、興味深そうに考え込む。


「なるほど、庶民の生活…。たとえばお部屋やお手洗い、さらには外出時にその香りを纏えば、生活自体が格段に上質になる、ということか……」


続けて、エドガーは冷静に提案した。


「では、ウェルナー領の香草をエムリット領にも分けて、両領の連携を強化しよう。その上で、試作品を作り、商業ギルドに持参しよう」


ヴィエナは力強く頷いた。


「分かりました。さっそく試作品をお持ちして、商業ギルドへ向かいましょう」


――数時間後、エドガーとヴィエナ、エリザは、華やかな雰囲気の中、商業ギルドの店先に到着した。従者たちも同行し、彼らの到着を温かく迎える。


エドガーは店番に向かって丁寧に申し入れた。


「こちらの商品を、ぜひともこちらのお店に置いていただけませんか?」


店番が一瞥すると、驚いたように呟いた。


「これは……?」


先にヴィエナが商業ギルド全体に、口火を切る。


「これは、ウェルナー領にしか存在しない香草を原料にした香水でございます。人々の生活をワンランクアップさせる、皆さんにとって新たな価値をお届けいたします」


店番は興味を隠せず、目を細めながら言った。


「ほう、それは面白い。何だか、話題性もありそうだな」


すぐに、客席からも声が上がった。

「何それ、売ってちょうだい!」

「おれも欲しい!」


ヴィエナは大盛況の盛り上がりをみせるギルド内に告げた。

「ただいまは生産中でして、予約のみとなっております」



「ならば、予約させてください!」

「おれも予約だ」

「プレゼントに私は10個予約よ」


庶民に向けた生活をワンランクアップさせる香水は、たちまち大量の予約が入り、店内は活気に包まれた。


「こんなにすぐに予約が入る商品なら、ぜひともこの店におかせてください」

と、店番が満足げに言うと、商業ギルド側も手配を始めた。


ヴィエナとエドガーは2人揃って、ギルド内の人々全員にむけてお礼をした。

「ありがとうございます。さっそく生産体制を整えますわ」


商業ギルドを後にするエドガーは、外に出ると呟いた。

「すごいな、ヴィエナ……。この調子じゃ、俺はもはや必要ないな。君に任せることにするよ。明日、父上が連れて来た縁談相手とのお茶会にも、安心して臨めそうだ」

エドガーはどこか寂しそうな表情で、明日の縁談の話を始めた。


ヴィエナは何をエドガーに伝えればいいか、分からず、少しの間沈黙が続いた。


「す、すまない、つい口に出てしまって。この香草と薬草はエムリット領でも育つから頼んだよ」

エドガーは自分の力不足を悔やんでいた。

自分よりも、最善の案を出すヴィエナに無力さと、己の必要のなさから出た言葉だった。


「いえ……それよりも香水がここまで売れるとは思いませんでしたね!」

「私も、ダニエル公と同じでアルバート領を倒したいです」

ヴィエナにとって婚約破棄されたアイクがいるアルバート領。傷モノになった自分が悪い。そんな事は分かっているが、どうしても一泡吹かせたい気持ちだった。


それを聞いたエドガーから提案が。


「学園で噂になってたが、アルバート領はヴィエナの元婚約者がいるんだったね」


「香水の販売が開始して、アルバート領を越えることが出来れば、父と一緒にアルバート領へ挨拶に行かないか?そしてこの香水をヴィエナが作った、そう言ってやらないか?」  


ヴィエナはそれを聞いて、何かを企んでいるような少し悪女の顔をした。


「いいですわね。そうしましょう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ