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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第003話 辺境伯家のユリウス

毎日19時に投稿を頑張ります(3日目)


新連載の作品も読んで頂けると嬉しいです

【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】


屋敷ではガイゼルが、第2農村の復興とサイーレ病の新規感染ゼロを成し遂げたヴィエナを誇らしく思い、喜びに浸っていた。


そんな時、一通の手紙が届く。ガイゼルは手紙を読み、すぐにヴィエナを書斎に呼び出した。


「ヴィエナ!ベルハルト辺境伯から縁談の話が来ている!」

目を輝かせながら、ガイゼルは娘に告げた。

「本当に良かったな。私は心から嬉しいぞ」


婚約を破棄された娘に再び縁談の話が来たことを、ガイゼルは素直に喜んでいた。


しかし――ヴィエナはその言葉に、どこか遠い感覚を覚えた。


(縁談……か)


もちろん、以前の自分なら願ってもない話だった。


社交界において、婚約破棄された貴族は大きな傷を負うもの。

そんな自分に、再び婚約の話が持ち上がるとは

――確かに、良い話のはず……


(でも……今さら?)

ヴィエナは、エムリット領を豊かにするために生きると決めた。

今の自分には、結婚より果たすべき目標が出来ている。

もし縁談を受けると領地を良くする事は出来ない。

どのように答えれば良いのか……言葉が出てこない……


「よし、早速お茶会の機会を調整し、顔合わせといこう」

「……あ、ちょっと、お父様!」


ヴィエナが止める間もなく、話はどんどん進んでいく。

日程が決まり、父の表情は晴れやかだった。


そんな父の横顔を見つめながら、ヴィエナはふと胸が締め付けられるのを感じた。


(お父様は、私の幸せを願ってくれている)


婚約破棄された娘に再び縁談が持ち上がることを…

娘としての名誉が回復することを…

何より、愛する娘が「普通の幸せ」を手にすることを、純粋に喜んでいる。


「でも……お父様」


ヴィエナは父を見上げる。


「お茶会をしたら、断る時、もっと難しくなるんじゃ……?」

「お茶会はあくまで顔合わせだ。すぐに婚約を決めるわけじゃない」


ガイゼルの声は穏やかだったが、

彼の心の奥には「婚約成立して欲しい」という期待が滲んでいるように思えた。


「……分かりました。でも、私はまだ婚約する心の準備ができておりません」

「気持ちは分かった。それに、実際会ってみないと何も分からないじゃないか」


その通りかもしれない。


しかし、お茶会の日が近づくにつれ、ヴィエナの心はますます重くなっていった。

もし気に入られたら?

もし父が、婚約をすぐに進めようとしたら?


そんな迷いを抱えたまま、ヴィエナはお茶会当日を迎えることになった。

―――――――お茶会当日――――――――――


ベルハルト辺境伯家のユリウスは、エムリット家の迎賓室で静かに紅茶を口にした。

「良い香りですね」

「気に入っていただけて光栄です」

ガイゼルが微笑みながら答える。


ユリウスはふと視線を窓に向けた。

この屋敷に住む令嬢――ヴィエナ。


噂では、領地を救うほどの才を持つが傷モノの女性。

ふん、なんて惜しい女性なんだ。


どこかヴィエナを見下し、何か思惑がありそうなユリウス

(どれほどのものか、直接確かめさせてもらおう)


彼がそう思った瞬間、扉が静かに開いた。


「お待たせしました、ヴィエナ・エムリットです」


ゆっくりと足を踏み入れたヴィエナを見たユリウスの目が、一瞬だけ驚きに見開かれる。

(……ほう)


傷モノと蔑まれた令嬢――

だがそこに立つのは、噂とは違う、凛とした気配を纏う女だった。

(これは惜しい。傷モノで無ければ素晴らしい女性だ)

そう感じた、ユリウスの唇が僅かに歪む。


「面白いことになりそうだ」


そう呟く声は、誰にも聞こえなかった――。

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