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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
29/75

第029話 なぜ…

毎日投稿継続中(29日目)

執筆完了しておりましたが、うっかり19時は過ぎてしまいました…

その場の空気が、一瞬で変わった。


エドガーが静かに問いかける。

「好きなのに、なぜ?」


ヴィエナは強く目を閉じ、そして再び彼を見つめた。


「私は……エムリット領の未来を守りたいのです」

「エドガー様と結婚すれば、今後の人生はさぞ楽しい事でしょう。でも、ウェルナー領に嫁ぐとエムリット領を第一に考える事が難しくなります」


「エドガー様がエムリット領にきてくださるのなら結婚したいですが…エドガー様もそうはいかないでしょう」

ヴィエナは心の底から本音をダニエルとエドガーにぶつけた。


エリザとロットは表情を崩さずヴィエナを見守る。

   

「……そうか」

エドガーは小さく笑った。


「君らしいな」

「僕も、ウェルナー領の人々の力になりたい。婿入りは出来ない」

エドガーは哀しそうな表情を浮かべるも、ヴィエナへの尊敬の気持ちが滲み出ている。


ダニエルが興味深そうに微笑む。

「なるほど、面白い娘だ」

「貴族の娘として、己の領地を守ることを第一に考えるか。それ自体は立派な姿勢だ」

ダニエルは満足げに頷く。


「だが、尚更お前の力をこのウェルナー領に迎え入れたいと思う。……他に条件はないのか?」


ヴィエナは一瞬迷う。

結婚以外で、ウェルナー領と関わりを持つ方法はあるのか?

だが、ダニエル公爵がここまで自分を評価している以上、何かしらの道はあるかもしれない。


「エムリット領とウェルナー領が正式に商業契約を結ぶのは、可能でしょうか?」


「ほう」


「婚姻ではなく、ビジネスとしての関係を築きたいのです。エムリット領の発展のために、ウェルナー領の商圏と提携し、相互の利益を生む形を取りたい」


ダニエルは少し驚いたように目を細める。

「なるほど、確かにそれは悪くない案だな」


「だが、婚姻以外でウェルナー領と正式な提携を結ぶなら、それ相応の信頼関係を築く必要がある」


「……?」


「エムリット領の娘が本当に商才を持ち、交渉の場に立つ資格があると証明してみせる必要がある」


「……試すというのですか?」


ダニエル公爵は真剣な眼差しで頷く。

「そうだ。ウェルナー領の市場において、何か一つ、目に見える成果を出してみせてくれないか?」


ヴィエナは息を呑んだ。

「具体的にどのような成果だと公爵様は納得しますか?」


ヴィエナの問いに、ダニエルは静かに頷いた。


「そうだな……具体的には、アルバート公爵家の商業圏を上回る何かを作り出せばいい」


「アルバート公爵家……?」


ヴィエナは一瞬考え、そしてすぐに思い当たる。

――そこは、かつて彼女が婚約していたアイクの実家でもある。


「アルバート領は、交易の要として栄えている。特に香料と織物の分野では、国内随一の市場を持っている。だが、私はそこに満足しているわけではない」


ダニエルの目が鋭くなる。


「ウェルナー領は、アルバート領に比べれば商業的な影響力はまだ及ばない。だが、私はこの領地をさらに発展させ、アルバート公爵家の力を超えるつもりだ」


ヴィエナの中に、静かに燃えるものがあった。


(アルバート領……元婚約者のアイク様がいる場所……)


(こんなありがたい機会、他にないわ)


(私の”復讐リスト”の一人……!)


婚約破棄されたことを、ただの過去にするつもりはなかった。


ならば――ここでダニエルの提案を受けるのは、ヴィエナにとっても大きな意味を持つ。


「――そのお話、乗らせていただきます」


ヴィエナは凛とした表情で答えた。


「アルバート公爵家を超える成果を、必ずやご覧に入れましょう」


ダニエルは満足げに微笑み、エドガーは驚いたようにヴィエナを見つめる。


(君は……本当にすごいな)


ヴィエナの挑戦が、新たな局面を迎えようとしていた。

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