第027話 ウェルナー公爵領
毎日19時に投稿を頑張ります(27日目)
新連載準備中です。
ウェルナー領の城館に招かれたヴィエナたちは、格式高い空間に緊張しながらも、エドガーのもてなしを受けていた。
「こちらの部屋へどうぞ」
エドガーに案内されたのは、美しいステンドグラスの窓から柔らかな光が差し込む、優雅な客間だった。
テーブルには、上品な銀食器が並べられ、黄金色の紅茶が湯気を立てている。
だが、最も目を引いたのは、透き通るように白く、そして輝いている菓子だった。
「これは……?」
目を丸くするヴィエナに、エドガーが微笑む。
「ウェルナー領の特産品で作ったアイスだよ」
「口の中で溶ける甘さと国で1番濃厚なバニラが特徴でね、暑い季節にはぴったりなんだ」
スプーンですくうと、しっとりとした雪のような質感が伝わる。
恐る恐る口に運んだヴィエナの表情が、一瞬で輝いた。
「お……美味しい!」
驚きと喜びの入り混じった声をあげ、ヴィエナはもう一口、もう一口と夢中で食べる。
「エドガー様、これは一体……!? こんなに濃厚でなめらかなアイスは初めてです!」
「ふふ、よかった。これはウェルナー領で特別に育てられた牛のミルクを使っているんだ。牛の餌からこだわっているから、質のいいミルクが取れるんだよ」
「餌まで……?」
「領民たちと協力して改良を重ねてね。うちの誇りのひとつさ」
感動したように目を輝かせるヴィエナ。
「エリザも食べてみて」
勧めると、エリザも一口食べ、珍しく瞳を輝かせた。
「……これは確かに、絶品ですね」
控えめな感想ではあるものの、その食べる速度は明らかに速い。
「エリザ、すごく美味しそうに食べてる……!」
微笑ましい空気の中、ヴィエナたちはすっかりくつろいでいた。
——だが、その頃、ウェルナー公爵ダニエルは、別の部屋で密かに話を進めていた。
⸻
「……あれが、噂の傷モノ……ヴィエナ嬢か」
豪奢な書斎の中で、ダニエルは静かに呟いた。
対面する側近の騎士が頷く。
「はい。気の強い娘でありながら、エムリット領の発展に貢献している才覚の持ち主。聡明で、商才にも長けていると聞いております」
「……まさか、エドガーが気になっている相手がエムリット領の娘とはな」
ダニエルは腕を組み、目を細めた。
「ですが、彼女は“傷モノ”……。本来なら、縁談の選択肢には入らないかと」騎士が口を開いた。
「でなければ、とっくに求婚されていただろうな」
ダニエルの言葉には、少しばかりの惜しむような響きがあった。
「ここまでの才覚を持つ伯爵令嬢は、そうそういるものではない。是非とも、ウェルナー領に欲しい娘だ」
「……ですが、公爵。傷モノの令嬢を迎え入れることは……」
「それを決めるのは、エドガーだ」
ダニエルは静かに言い放つ。
「エドガーが“傷モノ”の娘で構わないというのなら、問題はない」
「ですが、今週末にはエドガー様に縁談が控えております」
「……それもそうだな」
ダニエルは少しの間、考え込んだあと、命じた。
「一度、ヴィエナ嬢とエドガーを呼んでこい。直接話を聞こう」
「かしこまりました、公爵様」
⸻
それからしばらくして——
「ヴィエナ様、エドガー様」
執事が静かに部屋へ入ってくる。
「公爵様が、お二人をお呼びです」
「父が?」
エドガーの表情がわずかに強張る。
「……お呼び、ですか?」
(やはり、慣れない……なんて雰囲気…)
ヴィエナはダニエルの圧に怖気付く。
威厳ある公爵の言葉が、決して軽いものではないと理解しているからだ。
だが、逃げることは許されない。
二人は立ち上がり、執事の後に続いた。
⸻
公爵の待つ部屋へ入ると、ダニエルはすでに椅子に腰掛け、鋭い視線で二人を迎えた。
「……ヴィエナ嬢、改めてこんなところまで遥々来ていただき、感謝する」
「……いえ、そのようなお気遣いには及びません」
ヴィエナは丁寧に頭を下げる。
ダニエルはしばし彼女を観察するように見つめた。
「ところで、ヴィエナ嬢」
「はい?」
「エドガーと結婚するのか?」
「???…」
部屋の空気が、一瞬で張り詰めた。
ヴィエナは目を見開き、エドガーは驚いたように父を見る。
エリザとロットも、静かに動揺を滲ませた。
(え、えええええ!いきなり?)
まるで唐突すぎる質問に、ヴィエナは完全に固まるしかなかった——。




