第025話:ルナの異変と揺れる想い
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――その日の夜。
ヴィエナはベッドの上で天井を見つめたまま、なかなか眠れずにいた。
「もし……ヴィエナを婚約者にしたいと言ったら……」
エドガーのあの言葉が、頭の中をぐるぐると巡る。
本気だったの?それとも冗談?
どうして、あんなことを言ったの?
彼がすぐに「忘れてください」と言ったとしても、一度口に出た言葉はヴィエナの心に深く刻まれていた。
(……もし、私がエドガー様の婚約者になったら……?)
そんな想像をしてしまった自分に驚き、顔が熱くなる。
(馬鹿みたい……ありえないのに)
婚約者が決まれば、もう以前のように会えなくなる。
そう思うと、胸がぎゅっと締めつけられるようだった。
「……考えても仕方ないわ」
小さく呟いて、瞳を閉じた。
けれど、エドガーの優しい笑顔が瞼の裏に浮かび、ヴィエナは何度も寝返りを打ちながら、ようやく浅い眠りについた。
翌朝――
「ヴィエナ様!」
廊下を走ってきたエリザの声に、ヴィエナはベッドから飛び起きた。
「どうしたの?」
「ルナが……! ルナの様子が変なんです!」
「え……?」
驚き、すぐに席を立ち、厩舎へと駆けつける。
そこには、ぐったりと横たわるルナの姿があった。
体は汗だくで、荒い息をしている。
「ルナ!」
慌てて駆け寄ると、ルナは弱々しく耳を動かした。
その様子に、ヴィエナの胸がざわつく。
「何があったの? 」
「いいえ……朝、いつも通りに早く起きて厩舎を通ると、突然こんな状態に……」
「医者は呼んだの?」
「はい。でも原因が分からないと……」
「そんな……」
幼い頃からずっと一緒に育ってきたルナ。
何度もヴィエナを乗せて駆け、共に時間を過ごした大切な存在だ。
そのルナが、こんなに苦しそうにしているのに、何もできないなんて――。
(どうしよう……どうすれば……)
その時、ヴィエナの脳裏に浮かんだのは、エドガーの姿だった。
(エドガー様なら……もしかしたら……!)
「エリザ、手紙を書いても間に合わないわ」
「え……?」
「今すぐエドガー様のところへ行く!」
「でも……エムリット領からウェルナー領まで行くのに時間が……」
「急げば間に合う! エリザ、ロット隊長を呼んで!」
ヴィエナの言う通りにロットを呼びつけすぐにウェルナー領へ出発する3人。
馬車を走らせ、長い道のりを超えて、ようやくウェルナー領へと到着した。
「ここが……エドガー様のいる領地……」
初めて訪れる場所。
見上げれば、堂々たる城館が目の前に広がっている。
門の前に立つと、衛兵が警戒した目で問いかけてきた。
「お知り合いですか?」
「エムリット領のヴィエナです。エドガー様とはよく勉強会をご一緒しています。」
「……それは、これは失礼しました。すぐにお呼びします」
衛兵は早急にエドガーを呼びに行き、ほどなくして、館の中からエドガーが姿を現した。
「おや、ヴィエナ……どうしたんだい? こんな遠くまで……」
ヴィエナは息を切らせながら叫んだ。
「ルナが……ルナの様子が変なの……!」
エドガーの表情が一瞬で引き締まる。
「それは大変だ。すぐに向かおう」
馬車を飛ばし、エドガーを連れてエムリット領へ戻る。
厩舎に駆け込むと、ルナはまだ苦しそうに横たわっていた。
エドガーはすぐに診察を始める。
「高熱だ……」
額に手を当て、脈を測る。
「エドガー様、ルナは大丈夫でしょうか?」
「……おそらく、感染症ではないかと」
「治りますか?」
「今なら間に合う」
エドガーは即座に指示を出す。
「セラフィム草を煎じたものを飲ませよう。すぐに手配を」
薬草を用意し、煎じ、冷ましてからルナの口元へと運ぶ。
「ルナ……お願い、飲んで……」
ヴィエナが優しく声をかけると、ルナはゆっくりと薬を口にした。
数時間後――
「……ルナが眠ってる」
「熱が少し引いたな。このまま様子を見れば、大丈夫だろう」
エドガーは静かに言った。
「よし、これで1週間ほどすれば元に戻るはずだ。体力維持のため、水分補給を忘れずに」
「本当ですか……!」
安堵で涙が滲むヴィエナ。
エドガーはそんな彼女を見て、微笑んだ。
「大丈夫だよ。ルナは強い馬だから、きっと回復するさ」
「エドガー様……」
彼の優しさと、的確な判断に心が震える。
「本当に……ありがとうございます……」
愛馬のルナが無事回復すると分かり、心の底から湧き上がる感謝とともに、ヴィエナはふと口をついて出た。
「エドガー様……私、エドガー様が好きです……!」
エドガーの瞳が驚きに揺れる。
ヴィエナ自身も、思わず言ってしまった言葉に動揺して、頬を赤く染めた。
(あっ……! い、今……何を……!)
静寂が流れる。




