第024話 最後の勉強会?
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「エドガー様の力になりたいです」
その言葉が、まっすぐにエドガーの心に届いた。
エドガーは一瞬言葉を失った後、そっとヴィエナの手を握り返した。
「……ありがとう、ヴィエナ。でも、僕の問題に君を巻き込みたくはない」
ヴィエナはゆっくりと首を振る。
「巻き込む、巻き込まないの問題ではありません。私は……エドガー様のことが大切だから、放っておけないのです」
彼の婚約が決まってしまえば、もう以前のようには会えなくなるかもしれない。
そう思うと、胸が締めつけられるような感覚がヴィエナを襲った。
かといって、自分が何か出来るわけでもない。
エドガーは、そんな彼女の様子を見て、何かを悟ったように微笑む。
「君は本当に……優しいですね」
二人の間に、以前とは違う感情が流れていた。
それが何なのか、ヴィエナはまだはっきりと理解できない。
ただ、一つだけ確かなことがあった。
エドガーの婚約問題が解決しない限り、二人の関係はこれまでのようにはいかないということ。
書斎の窓の外では、夕暮れの光が静かに差し込んでいた。
二人の心にも、それぞれの影が落ちていく。
エドガーは静かに息を吐き、窓の外へと視線を移した。
夕暮れの光が薄れ、やがて夜の帳が下り始めている。
「もし……」
ふと、彼の口から言葉が零れた。
「もし……ヴィエナを婚約者にしたいと言ったら……」
その言葉に、ヴィエナは驚いたようにエドガーを見つめた。
「……え?」
自分の耳を疑ったかのように、ほんのわずかに目を見開く。
何か言葉を返そうとするが、思考が追いつかず、喉の奥で声が詰まる。
しかし、エドガーは一瞬の沈黙の後、ふっと苦笑し、そっと首を振った。
「……いや、なんでもない。忘れてください」
彼は軽く頭を振ると、何事もなかったかのように薬草の図鑑を手に取った。
だが、彼の指先はほんのわずかに震えていた。
ヴィエナもまた、その言葉の意味を考えながら、そっと俯く。
胸の奥に、得体の知れない感情が渦巻いているのを感じながら……。
「そろそろ帰らなくては」
エドガーはそう呟くと、そっと椅子から立ち上がった。
ヴィエナも顔を上げ、彼を見つめる。
「……エドガー様」
何か言いたかった。
けれど、何を言えばいいのか分からない。
エドガーはそんな彼女の様子を見て、微かに微笑んだ。
しかし、その笑顔はどこか寂しげだった。
「お茶会は10日後です」
それだけを言い残し、彼は静かに書斎の扉へと向かった。
手を伸ばして扉に触れた瞬間、一瞬だけ動きを止める。
まるで、もう一度振り返るか迷っているように――。
けれど結局、彼は何も言わず、そのまま扉を開けて廊下へと消えていった。
扉が閉まる音が、静かな書斎に響く。
ヴィエナは席に座ったまま、エドガーがいた場所をじっと見つめていた。
そして――
エドガーの婚約者候補が発表されるお茶会の日は、10日後とすぐそこまで迫っていた。




