第023話 婚約者
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【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】
エリザがお茶を書斎に運んでいくと、すでにヴィエナとエドガーの勉強会が始まっていた。
エドガーは、机上に広げた薬草の図鑑を指し示しながら、熱心に説明を続けていた。
「この植物はフロロミル草といって、近年発見された新種です。特に熱病に対する効果が期待されています」
ヴィエナの休学中にも、医学の学びを進めていたエドガーは、彼女に新たな知識を教えてくれる。
しかし、ヴィエナは彼の言葉が耳に入らず、うわの空の状態だった。
エドガーの表情や態度に、普段とは違う何かを感じ取っていたからだ。
彼の微かなため息や、時折見せる陰りのある瞳が、ヴィエナの胸に不安を募らせていた。
「ヴィエナ、聞いていますか?」
エドガーの声にハッと我に返ったヴィエナは、慌てて答えた。
「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていて…」
エドガーは微笑みながらも、その笑顔にはどこか疲れが滲んでいた。
「大丈夫ですよ。何か気になることがあるなら、話してください」
ヴィエナは一瞬躊躇したが、このままでは勉強会に集中ができない…それだと申し訳ないと思い、意を決して口を開いた。
「エドガー様、今日のあなたはいつもと違うように感じます。何かあったのですか?」
エドガーは驚いたように目を見開き、しばらく沈黙した後、静かに話し始めた。
「実は、昨日父と話をしました。その内容が…気になってしまって」
ヴィエナは黙って彼の言葉を待った。エドガーは深呼吸をし、続けた。
――昨日、ウェルナー領の館――
エドガーは父、ウェルナー公爵の書斎に呼ばれていた。
重厚な扉をノックし、中に入ると、ダニエル公が厳しい表情で座っていた。
「父上、お呼びでしょうか」
ダニエル公はエドガーを見つめ、低い声で問いかけた。
「エドガー、前も言ったがお前はいつになったら婚約者を見つけるのだ?」
エドガーは一瞬言葉に詰まりながらも答えた。
「気になっている方はいます…」
しかし、ダニエル公は眉をひそめた。
「前にも同じことを言っていたな。だが、何も進展していないようだ」
エドガーは視線を落とし、申し訳なさそうに言った。
「申し訳ありません、父上」
公爵は深いため息をつき、机の上の書類を手に取った。
「もう待てん。私がお前の婚約者を見つけてきた」
エドガーは驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「なぜそんな勝手なことを…私は自分の意志で結婚相手を決めたいのです」
しかし、ダニエル公は首を振った。
「お前の悠長な考えに付き合っている時間はない。今度、お茶会を開くから、その日を空けておけ」
父は有無を言わせぬ口調で告げた。
「待ってください、父上!」
当然エドガーの声は父に届かず、父は部屋から出て行った。
エドガーは苦笑いを浮かべながら言った。
「ということがあったのです……」
ヴィエナはエドガーの話を聞き、胸が締め付けられるような思いを感じた。
「それで、エドガー様はどうされるおつもりですか?」
エドガーは窓の外を見つめながら答えた。
「正直、まだ考えがまとまりません。父の意向を無視するわけにもいかず、しかし自分の気持ちも大切にしたい」
ヴィエナはエドガーの横顔を見つめ、静かに言った。
「エドガー様の幸せを一番に考えてください。無理に決断する必要はありません」
エドガーはヴィエナの言葉に感謝の微笑みを返した。
「ありがとう、ヴィエナ。君の言葉に救われます」
二人の間に静かな時間が流れた。外では風が木々を揺らし、鳥のさえずりが聞こえていた。
エドガーは再び薬草の図鑑に目を向け、話題を戻そうとした。
「さて、先ほどのフロロミルですが…」
しかし、ヴィエナはエドガーの手をそっと取り、真剣な眼差しで言った。
「エドガー様の力になりたいです」
エドガーは驚き、ヴィエナの瞳を見つめた。
彼女の瞳には、迷いのない強い意志が宿っていた。
「……ヴィエナ」
エドガーの声は、驚きと戸惑いに揺れていた。




