表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
23/75

第023話 婚約者

毎日19時に投稿を頑張ります(23日目)


評価、星1でも星5でも喜びます。


新連載の作品も読んで頂けると嬉しいです

【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】


エリザがお茶を書斎に運んでいくと、すでにヴィエナとエドガーの勉強会が始まっていた。


エドガーは、机上に広げた薬草の図鑑を指し示しながら、熱心に説明を続けていた。


「この植物はフロロミル草といって、近年発見された新種です。特に熱病に対する効果が期待されています」


ヴィエナの休学中にも、医学の学びを進めていたエドガーは、彼女に新たな知識を教えてくれる。


しかし、ヴィエナは彼の言葉が耳に入らず、うわの空の状態だった。

エドガーの表情や態度に、普段とは違う何かを感じ取っていたからだ。


彼の微かなため息や、時折見せる陰りのある瞳が、ヴィエナの胸に不安を募らせていた。


「ヴィエナ、聞いていますか?」

エドガーの声にハッと我に返ったヴィエナは、慌てて答えた。


「あ、ごめんなさい。少し考え事をしていて…」


エドガーは微笑みながらも、その笑顔にはどこか疲れが滲んでいた。

「大丈夫ですよ。何か気になることがあるなら、話してください」


ヴィエナは一瞬躊躇したが、このままでは勉強会に集中ができない…それだと申し訳ないと思い、意を決して口を開いた。


「エドガー様、今日のあなたはいつもと違うように感じます。何かあったのですか?」


エドガーは驚いたように目を見開き、しばらく沈黙した後、静かに話し始めた。


「実は、昨日父と話をしました。その内容が…気になってしまって」


ヴィエナは黙って彼の言葉を待った。エドガーは深呼吸をし、続けた。


――昨日、ウェルナー領の館――

エドガーはダニエル、ウェルナー公爵の書斎に呼ばれていた。

重厚な扉をノックし、中に入ると、ダニエル公が厳しい表情で座っていた。


「父上、お呼びでしょうか」


ダニエル公はエドガーを見つめ、低い声で問いかけた。


「エドガー、前も言ったがお前はいつになったら婚約者を見つけるのだ?」


エドガーは一瞬言葉に詰まりながらも答えた。

「気になっている方はいます…」


しかし、ダニエル公は眉をひそめた。

「前にも同じことを言っていたな。だが、何も進展していないようだ」


エドガーは視線を落とし、申し訳なさそうに言った。

「申し訳ありません、父上」


公爵は深いため息をつき、机の上の書類を手に取った。

「もう待てん。私がお前の婚約者を見つけてきた」


エドガーは驚きと戸惑いの表情を浮かべた。

「なぜそんな勝手なことを…私は自分の意志で結婚相手を決めたいのです」


しかし、ダニエル公は首を振った。

「お前の悠長な考えに付き合っている時間はない。今度、お茶会を開くから、その日を空けておけ」


父は有無を言わせぬ口調で告げた。


「待ってください、父上!」

当然エドガーの声は父に届かず、父は部屋から出て行った。


エドガーは苦笑いを浮かべながら言った。

「ということがあったのです……」


ヴィエナはエドガーの話を聞き、胸が締め付けられるような思いを感じた。

「それで、エドガー様はどうされるおつもりですか?」


エドガーは窓の外を見つめながら答えた。

「正直、まだ考えがまとまりません。父の意向を無視するわけにもいかず、しかし自分の気持ちも大切にしたい」


ヴィエナはエドガーの横顔を見つめ、静かに言った。


「エドガー様の幸せを一番に考えてください。無理に決断する必要はありません」


エドガーはヴィエナの言葉に感謝の微笑みを返した。

「ありがとう、ヴィエナ。君の言葉に救われます」


二人の間に静かな時間が流れた。外では風が木々を揺らし、鳥のさえずりが聞こえていた。


エドガーは再び薬草の図鑑に目を向け、話題を戻そうとした。

「さて、先ほどのフロロミルですが…」


しかし、ヴィエナはエドガーの手をそっと取り、真剣な眼差しで言った。

「エドガー様の力になりたいです」


エドガーは驚き、ヴィエナの瞳を見つめた。

彼女の瞳には、迷いのない強い意志が宿っていた。


「……ヴィエナ」

エドガーの声は、驚きと戸惑いに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ