第022話 違和感
毎日19時に投稿を頑張ります(22日目)
社交会から帰宅したヴィエナの心は、抑えきれない喜びで満ち溢れていた。
彼女の頬は桜色に染まり、瞳は星のように輝いていた。
普段の落ち着いた彼女からは想像もつかないほど、浮き立つような様子だった。
「ヴィエナ様、お帰りなさいませ」
侍女のエリザが、微笑みを浮かべながら出迎えた。
「ただいま、エリザ」
ヴィエナは上機嫌で答えたが、その声には隠しきれない興奮が滲んでいた。
エリザはそんな彼女の様子に気付き、優しく問いかける。
「何か良いことがあったのですか?」
「え?どうしてわかったの?」
ヴィエナは驚いたように目を見開いた。エリザは微笑みを深め、穏やかに答える。
「ヴィエナ様は、以前も同じようなご様子でしたので」
その言葉に、ヴィエナは一瞬考え込む。そして、思い当たる節があることに気付き、頬を赤らめた。
「もしかして、エドガー様のことですか?」
エリザの問いに、ヴィエナは視線を床に落とし、頬を赤らめながら小さな声で答えた。
「そうなの」
エリザは少し驚いた表情を見せた。
「てっきり、ヴィエナ様はもうエドガー様のことを忘れられたのかと思っておりました」
「そのつもりだったんだけど……私の誤解だってことが分かって……それで……」
ヴィエナの声には、安堵と喜びが混じっていた。エリザは優しく頷き、彼女の気持ちを受け止める。
「そうだったのですね」
「そして、今度また勉強会をできることになったの!」
ヴィエナは嬉しそうに声を弾ませた。その姿に、エリザも微笑みを返す。
「それは良かったですね」
「最近、領地の経済のことばかり考えていたから、医学のことも勉強会までに覚えておかなくちゃ」
ヴィエナは意気込んで言った。エリザはそんな彼女を見つめ、提案する。
「お手紙をお出しになりますか?」
エリザの言葉に、ヴィエナは少し考えた後、頷いた。
「そうね。エドガー様にお礼の手紙を書かなくちゃ」
ヴィエナは窓辺の机に向かい、ペンを手に取った。
エリザはそんな彼女の姿を見守りながら、心の中で彼女の幸せを願っていた。
手紙を書き終えたヴィエナは、封をしてエリザに手渡した。
エリザは丁寧に受け取り、温かく微笑んだ。
その夜、ヴィエナは柔らかな月明かりの下、ベッドに横たわりながら、エドガーとの再会を思い返していた。
彼の優しい笑顔、そして再び勉強会を開く約束。胸の中に広がる温かい感情に包まれながら、彼女は静かに目を閉じた。
翌朝、ヴィエナは早くから起き出し、書斎に向かった。
彼女は勉強会に備えて、医学の書物を手に取り、熱心に読み始めた。エリザはそんな彼女の姿を見て、微笑ましく思いながらも、無理をしないよう声を掛ける。
「ヴィエナ様、あまりご無理をなさらないでくださいませ」
「ありがとう、エリザ。でも、エドガー様との勉強会までに少しでも知識を深めておきたいの」
ヴィエナの瞳には強い意志が宿っていた。エリザはそんな彼女の決意を尊重し、そっと部屋を後にした。
数日後、エドガーからの返事が届いた。手紙には、勉強会の日程や内容についての提案が丁寧に書かれていた。
「エリザ、エドガー様からお返事が来たわ!」
ヴィエナは嬉しそうに手紙を掲げた。エリザもその喜びを共有し、微笑んだ。
「それは良かったですね。勉強会の準備を進めましょうか」
「ええ、お願いするわ」
ヴィエナとエリザは、勉強会の準備に取り掛かった。部屋の掃除や資料の整理、そしてお茶菓子の用意など、細やかな気配りが施された。
――――そして、勉強会当日――――
ヴィエナは少し緊張しながらも、エドガーを迎える準備を整えていた。エリザはそんな彼女を励まし、微笑んだ。
「大丈夫ですよ、ヴィエナ様。エドガー様もきっと楽しみにしていらっしゃいます」
「ありがとう、エリザ」
ヴィエナは深呼吸をし、心を落ち着かせた。
やがて、エドガーが到着した。やがて、エドガーが到着した。彼は優雅な身のこなしで部屋に入ったが、その表情にはどこか陰りが見えた。
「お招きいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」
だが、ヴィエナは胸の奥に小さな不安を覚えた。
エドガーの笑みはどこか固く、声のトーンや視線が、いつもと微妙に異なっているように感じられたのだ。
(どうしたのかしら、エドガー様……いつもと違って様子が変……)
彼の瞳に一瞬浮かんだ憂いの色とぎこちない笑みを見逃さなかったヴィエナは、心の中でそう問いかけた。




