第021話 2人の舞
毎日19時に投稿を頑張ります(21日目)
初執筆ですが毎日投稿を続けると宣言してスタートしました。
やっと慣れてきたけど、、、ってところです笑
社交会の終幕が迫る中、ヴィエナとエドガーは急ぎ足で広場へと向かっていた。
ヴィエナはドレスの裾を少し持ち上げながら、小走りにならないよう注意しつつも、足を速める。
その横で、エドガーも落ち着いた足取りのまま、それでも確実に歩調を合わせていた。
「急がないと、本当に終わってしまう!」
ヴィエナは焦りを滲ませる。
「大丈夫、まだ間に合う」
エドガーの穏やかな声が、彼女の不安を和らげるように響いた。
広場に到着すると、すでに舞踏会は佳境を迎えていた。
貴族たちは優雅にダンスを楽しみ、華やかな音楽が静かに夜の空気に溶けていく。
そんな中、ヴィエナたちの姿を見つけた令嬢の二人が、ひそひそと囁き合う。
「ちょっと見て、エドガー様とヴィエナじゃない?」
「え? どうして二人が一緒にいるの?」
周囲の視線が、じわじわと彼らに向けられていくのを感じた。
エドガーは静かにヴィエナの手を取り、堂々と舞踏の中心へと進む。
「さあ、踊ろう」
彼の声は柔らかく、それでいて有無を言わせぬ強さがあった。
ヴィエナは一瞬戸惑いながらも、そっと頷く。
そして、音楽が切り替わり、二人は静かに踊り始めた。
(なんて……洗練された踊りなの……)
エドガーのリードは完璧だった。
彼の手に導かれるままにステップを踏むと、驚くほど自然に体が動く。
回転するたびに、ドレスの裾がふわりと舞い、まるで一輪の花が開くようだった。
周囲の貴族たちは、視線こそ向けるものの、声を上げることなく静かに二人の踊りを見守っている。
やがて、音楽が終わると、場には落ち着いた空気が戻った。
わずかに微笑みを浮かべた貴婦人たちが、小さく手を打つ。
「素敵なダンスだったわね」と囁く声が聞こえ、ヴィエナは少しだけ安堵した。
しかし、その空気を破るように、一人の令嬢が冷ややかに呟く。
「エドガー様の踊りが素晴らしかっただけよ。大袈裟だわ」
それは、アルセイン伯爵家のネピアだった。
いつもヴィエナに冷淡な視線を向ける彼女は、今日も変わらず皮肉な笑みを浮かべていた。
ヴィエナは僅かに眉を寄せるが、エドガーはそれには応えず、むしろ穏やかに微笑みながら彼女の方を向いた。
「ヴィエナ、学園を休んでいる間に真珠の養殖を始めたんだって?君は本当にすごいな」
その言葉に、ヴィエナは少し戸惑いながら首を振る。
「いえ、周りの助けがあってこそですわ。私一人では到底……」
そう言いつつも、胸の奥には確かな誇りがあった。
努力が報われ、少しずつ実を結び始めているのを実感する。
エドガーはそんな彼女を見つめながら、静かに言葉を続けた。
「君が学園を休学すると聞いたとき、きっと領地拡大のために奮闘しているんだろうと思っていた」
ヴィエナは驚き、彼を見上げる。
「……」
「僕も頑張らないといけないと思ってね、新しい医学の知識を学んでいたんだ」
「えっ……そうだったんですか?」
彼の真摯な眼差しに、ヴィエナの胸がじんわりと温かくなった。
エドガーは変わらず、努力を怠らず、学び続けている。
それが彼の信念なのだと、改めて思い知らされる。
「良かったら、今度話を聞いてくれないか?」
彼の声は穏やかだったが、その中に強い意志が感じられた。
ヴィエナは、一瞬の迷いの後に、小さく息をついて頷く。
「……知りたいです」
エドガーの言葉が、これまで積み重なっていた不安を、そっと溶かしていくようだった。
(なんて優しい人なのかしら……)
「また……勉強会をしませんか?」
彼の申し出に、ヴィエナは胸がいっぱいになるのを感じた。
一度は遠ざけた存在。それでもこうして、変わらぬ優しさを向けてくれる。
「もちろん」
彼女の返事を聞くと、エドガーは迷いなく彼女の手を取った。
その手の温もりが、ヴィエナの心をそっと包み込む。
「よろしくお願いします!」
ヴィエナは満面の笑みを浮かべながら応えた。
こうして、社交会は静かに幕を閉じた。
だが、それはヴィエナにとって、新たな一歩を踏み出すきっかけとなったのだった——。




