第018話 エムリット領の拡大
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海賊との交渉を終えた一行は、ヤニウス領へと一時戻った。
潮風に吹かれながら、エムリット領の人々とリカルド伯が、岸辺に集まる。
リカルド伯は、深い感慨とともに厳かな声で語りかける。
「ヴィエナ嬢、そしてエムリット領の皆々様。この困難な交渉を無事に終えることができました。心から感謝いたします。本当にありがとうございます。」
その言葉に、ヴィエナをはじめエムリット領の者たちは、静かに頭を下げた。
ガイゼルもまた、深い感謝の意を隠さず応じた。
「ありがとうございます。これも皆様のお力添えのおかげです」
リカルド伯はさらに続ける。
「約束通り、沿岸地域の一部を今後、エムリット領にお貸し致します。これにより、双方の未来がより明るくなることを、私も確信しております」
ガイゼルはしっかりと頷き、
「ありがとうございます。私も同じ気持ちです」と返事をした後、ヤニウス領に別れの挨拶を交わしエムリット領へ帰宅した。
―――【新たな挑戦の始動】―――
エムリット領に到着後、ヴィエナ嬢は冷静な口調で宣言する。
「まずは、海賊たちの治療を行い、彼らの傷を癒すことが最優先です。彼らもまた、過酷な日々の中で数多の苦難を経験しております」
すぐに、医療陣と技術者たちが動き出し、傷だらけの海賊たちの治療と、養殖場ならびに新たな住居の建設工事が同時進行で始められた。
資材が次々と運ばれ、作業は着実に進む。
エムリット領の人々と海賊たちが協力し合う姿は、かつてないほどの一体感をもたらした。
―――【数週間後】―――
急ぎながらも丹念に進められた工事は、遂に完成の兆しを見せた。
整然とした真珠養殖場と、温もりを感じさせる海賊の新居が、荒れ果てた沿岸に新たな風景を刻んでいた。
海賊のリーダー、ドレークは、重々しい声で感謝の意を述べる。
「ガイゼル様、ヴィエナ様。何から何まで、本当にありがとうございます。あなた方のお導きにより、我々も新たな未来への一歩を踏み出せること、心より感謝いたします」
ガイゼルは静かに答える。
「うむ。これから共に歩もう」
ヴィエナは、鋭い眼差しで全体を見渡しながら宣言する。
「これにより、エムリット領は更なる発展を見込めます。領はまだこれからです。皆様、今後ともご協力くださいますようお願い申し上げます」
そして、彼女は新たな計画を提示する。
「養殖の真珠が実るまでの間、ヤニウス伯にお貸しいただいた場所で、天然の真珠を収穫し、販売の道を切り拓きましょう」
エムリット領は、真珠販売のためのルート整備にも着手。
侍女エリザと共に、ヴィエナは慎重かつ堂々と各店舗を訪ね、真珠の価値を丁寧に説いた。
「こちらに真珠をお置きいただけませんか?この希少な真珠は、国中で求められております」
と彼女の端正な声が店主の耳に届くと、商人たちは顔を輝かせ、
「大歓迎です!真珠のような珍品、ぜひとも」と応じた。
次第に、真珠の販売先は次々と決まり、この噂は町中、さらには国中に広がっていった。
ある町角では、住民たちが驚嘆する声を上げる。
「エムリット領、サイーレ病対策の次は真珠販売を始めるらしいぞ。」
「なんと…実に見事だなぁ」
こうして、エムリット領の新たな挑戦は始まった。
海賊たちの救済と共に、領の発展と真珠事業は大きな一歩を踏み出す。
ヴィエナはエムリット領の人々へ今回の成果を報告すべく、資料の準備に取り掛かっていた。
その時、部屋の扉が静かにノックされ、父・ガイゼルが現れる。
「あら、お父様、どうしました?」
父が自室にくるなんて珍しく、不思議そうにヴィエナが、要件を聞くと、ガイゼルから思いもよらぬ一言が……
「そういえば、明日の学園の社交会に出席しなければ、卒業が危ぶまれるぞ」
その一言に、ヴィエナ嬢は内心で苦々しい思いを隠しながら、
「……忘れていた」と呟く。
久々の学園、そして社交会への再出発が、彼女にとってまた新たな試練を意味していた。




