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傷痕の令嬢は微笑まない  作者: 山井もこ
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第012話 新たなる挑戦の扉

毎日19時に投稿を頑張ります(12日目)

ヴィエナは、これ以上学園で学ぶことに価値を見出せず、しばらく休学する決意を固めた。

「もう、学ぶものなんて何もない……。卒業だけ出来ればいいわ。」


あとは新たな商業への投資に全力を注ぐのみ――

そう自らに言い聞かせると、ヴィエナは次なる投資先を探るため、侍女エリザを伴い、街へと足を運んだ。


街の喧騒の中、彼女はまず人気のお店や、評判の良い商品を調査するべきだと考えた。

簡単な話、売れている商品こそ、人々の需要が高く、経済を潤すものだからだ。

 

「エリザ、まずはどんな店が賑わっているのか、聞いてみましょう。」


二人は商業ギルドの近くへ向かい、そこに勤務する清掃スタッフの一人に声をかけた。


「お忙しいところ失礼します。現在、商業の調査をしておりまして、もし差し支えなければ、今どのような商品が人気かお聞かせ願えませんか?」


清掃スタッフは丁寧に答える。


「はい、お嬢様。現在、ギルド内で人気があるのは、服、装飾品、そして食料でございます。」


「ありがとうございます」

そうお礼を言った後、ヴィエナは眉をひそめ、静かに考える。


(なるほど……でも、服は蚕の飼育が必要だし、食料も、エムリット領の広さでは太刀打ち出来ない。ならば、装飾品が最も有望かしら……となると鉱石が取れる山が必要ね)



(でも…山を探すにしても鉱石はどんな山でも豊富に取れるわけではなく…まるで宝探しのようなもの……)


ヴィエナがそう迷っていると、ギルドの清掃スタッフがさらに口を開いた。

「そういえば、港での交易や漁で稼いでいる貴族の方もいらっしゃいます。」


だが、ヴィエナは軽くため息をつき、現実を見つめた。


「うーん、なるほど。でも、エムリット領は沿岸地域を管理していないから……実現は難しいわね」


しばらく悩んだ末、ヴィエナが沈思していると、そばにいたエリザが静かに口を開いた。

「最初の市場調査でここまで分かれば、十分な成果ですね」


「交易や漁で富を築いているのは、ヤニウス伯爵家ですね。お手紙を送って意見交換をお願いしてみるのはどうでしょうか?」

 

それを聞いて悩んでいたヴィエナは前向きになった。


「確かにそうね。悩んでいても意味がない。沿岸地域を管理しているヤニウス伯に直接聞きに行くべきだわ。何か新しい事が分かるかもしれない。」


決意を固めた彼女は屋敷に戻ると、すぐに父に相談することにした。屋敷で父ガイゼルに事情を話すと、父は深くうなずいた。


「ヴィエナ……そこまで領地の事を考えてくれて嬉しいぞ。よし、分かった。領の未来を託すにふさわしい試みだ。」


その日のうちに、父からヤニウス伯への手紙が送られた。

数日後、届いた返事の手紙にはこう書いてあった。


⸻エムリット伯爵殿

この度の、ご提案誠に光栄に存じます。

是非一度、ヤニウス領へお越しください。

  

そして、今度の週末、父とヴィエナ、エリザ、そして護衛隊長のロットが同行し、馬に乗って沿岸地域へ向かうことになった。


⸻当日

朝早く、青空の下、ヴィエナたちは海へと向かった。

広大な青い海が目の前に広がり、潮風が心地よく吹き抜ける。その景色に、エリザがふと呟く。


「海のそばは少し肌寒いですね。」


ヴィエナは愛馬のルナを撫でながら微笑んだ。

「ルナ、見て。綺麗ね。一緒に来られて良かったわ」

ルナも嬉しそうに顔をヴィエナにすり寄せる。

 

周囲からは落ち着いているように思われるが、

ヴィエナの心の内は緊張と期待が入り混じっていた。


しばらくして、一行は沿岸地域を管理しているヤニウス伯爵領に到着した。


玄関前で、父ガイゼルとエムリット領の一同が整然と挨拶を交わす中、ヤニウス伯爵家のリカルド伯が深々と頭を下げた。


「遠路はるばるお越しいただき、誠に光栄に存じます。」

 

ガイゼルも同じように深々と頭を下げる。


「こちらこそお招き頂き感謝申し上げます。」

「実は、エムリット領は、新たな商業への投資を模索しております。特に、交易や漁業の面で富を築いている、ヤニウス伯と意見交換したく存じます。」


リカルド伯は一瞬の沈黙の後、笑みを浮かべ口を開いた。


「もちろんでございます。ぜひ、我々もその提案に応じさせていただきます。


そこで、ヴィエナが一歩前に出て、厳粛な口調で提案した。

「私どもはサイーレ病の対策についても率直に情報を共有させていただきます。これは、双方にとって有益な意見交換の機会になると信じております。」

 

アルラウドが驚くように言葉をいう

「なんと……サイーレ病の対策について、教えていただけるのですか?」

 

この国でサイーレ病の対策を知っているのは、エムリット領の人間、エドガーのみ。

貴族たちにとっては、喉から手が出るほど欲しい情報だった。


ヴィエナは静かに頷く。


「はい。ではまず、サイーレ病についてお教えします」

ヴィエナはそう言ってサイーレ病についての全てを話した。


全てを知ったアルラウドは感謝した。

「ありがとうございます。では次に私達の交易と漁についてお教えします」


「実は……」


しかし、この時のヴィエナたちはまだ知らなかった。

ヤニウス伯爵家が抱える秘密が、彼女たちの未来を大きく左右することになるとは――。


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