第011話 やってやりますわ
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【白い結婚と言ったのは王子のあなたですよ?】
学園の昼下がり、庭園の片隅でエリーゼとエドガーが二人っきりで楽しげに談笑している姿が目撃し、目を伏せたヴィエナ。
突如として締め付けられるような悲しみに染まった。
(この学園に私の味方はいなかった………)
エドガーの事を、学園内で唯一心を開ける存在だと思っていた彼女。
だが、その考えも無くなり全てを失ったような気持ちだった。
ヴィエナは涙をこらえながら、立ち上がると急ぎ足でその場を離れた。
心の中で、何度も「こんなはずじゃなかった」と呟くが、胸にこみ上げる切なさは抑えきれない。
そのまま屋敷に帰るため、彼女は学園の敷地内を走り去ろうとした。
そのとき、エドガーはふと後ろを振り返り、ヴィエナの姿に気づいた。
彼はすぐに、声を張り上げる。
「ヴィエナ、待ってくれ!」
しかし、ヴィエナは一切振り返らず、ただただ走り去る。
エドガーの叫びも、遠ざかる足音にかき消されるように、彼女はその場を離れた。
彼の隣にいたエリーゼは、ため息交じりに呟いた。
「え?例の傷モノ令嬢、またあんなふうに学園を乱して…」
「何故そんなに構うのですか?ほっとけばいいじゃないですか」
だが、その瞬間、エドガーの心には自分への疑念が走る。
もしかして、今二人で話していた内容が、ヴィエナにとって不快だったのだろうか。
そんな思いに駆られ、彼は急いでヴィエナを追いかける決意を固めた。
「ヴィエナ!聞いてくれ!」とエドガーは必死に走り出すが、すぐに彼女の姿は視界から消えてしまう。
エリーゼが心配そうに問いかける。
「エドガー様、なんでそんなに追いかけるのですか?あの子は…」
しかし、その言葉にエドガーは答える間もなく、辺りを見渡すが、どこにもヴィエナの姿はない。
彼はため息をつき、心の中で呟いた。
「確実に…ヴィエナに嫌われた。あの言葉だけを聞いてしまったのかもしれない…」
悩むエドガーの気持ちは、空虚な学園の庭園に静かに消えていった。
一方、ヴィエナは学園から屋敷へ戻るため、馬車に乗り込んだ。
窓越しに流れる風景は、いつものように穏やかでありながらも、彼女の心には冷たい孤独と深い悲しみを映し出していた。
屋敷に着くと、誰にも気づかれることなく、彼女は自室へと直行した。
自室の扉を閉めると、ヴィエナはベッドに崩れ落ち、ただただ悲しみの中に沈んだ。
涙が枕を濡らし、過ぎ去った日々の苦い記憶が次々と思い出される。
(私には何も残っていない……)
かつて婚約破棄により傷ついた心、学園での蔑みの言葉、そして今、エドガーの笑顔すらも遠ざかるかのように感じられる孤独が、一気に押し寄せてくる感覚だった。
数日間、ヴィエナは自室に閉じこもり、外との接触を断った。
エリザが何度も心配の声をかけに来たが、彼女は短い返事だけを返すに留め、深い沈黙の中に自らを閉ざしていた。
エリザの温かな励ましすら、今のヴィエナには届かなかったようだ。
――だが、ある朝。
朝靄が屋敷の廊下に柔らかく差し込み、静かな空気が漂う中、ヴィエナの自室のドアが開いた。
それに気づいたエリザがすぐに駆け寄る。
「ヴィエナ様、もう大丈夫なんですか?」
ヴィエナは一瞬ためらいながらも、静かな口調で答える。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫。」
長い間、部屋に閉じこもっていた彼女だが、その目には、かつての夢を取り戻すかのような強い光が宿っていた。
静かな廊下を歩むヴィエナの足取りは、以前のような不安や悲しみを超え、確固たる意志に満ちていた。
かつての傷も、蔑まれた過去も、唯一の味方と思っていたエドガーも失った。
それらすべては自分を鍛えるための試練に過ぎないと。
何日も続いた孤独と悲しみの日々は、今や彼女の新たな挑戦への原動力となっていた。
屋敷の広い廊下を、一歩一歩、確かな足取りで進む彼女の背中には、数日枕を濡らした面影はなく、もう未来への強い意志と覚悟が感じられた。
(部屋にこもって泣いていても、学園の貴族の連中が喜ぶだけ……)
「そんなのありえない」
誇れる領地運営と医療の知識を手に入れるという夢――
それを胸に、静かに、しかし確実に前進し始めた。
蔑んだ貴族と婚約破棄した、公爵家のマテリウス領・伯爵家のアルセイン領・公爵家アルバート領を超えるには農民からの地代や年貢としての収入だけでは足りない。
元々の土地の広さや気温の差があるからどうしても敵わない。
「となると、新たな商業への投資が必要ね」
ヴィエナは新たな収入源を構築しエムリット領を領地外からも潤す必要があると考えたのだった。
「徹底的な市場調査をいたしますわ」
「見てなさい、やってやります」
果たして覚悟を決めたヴィエナの市場調査とは……




