3.遊び心
綿の代わりに詰め込まれた米で変形し、赤い糸を体に巻き付けたスヌーピーは、少し滑稽だった。
シャワーを浴びてたばこの匂いを落とした綾子はぬいぐるみの前に座り込み、ぼんやりとぬいぐるみをながめた。
綾子は目の前のぬいぐるみをどうしようか、考えあぐねていた。このぬいぐるみは、インターネットで一時期かなり話題になった「ひとりかくれんぼ」でとられる方法に則って作ったものだ。
「ひとりかくれんぼ」は、言ってしまえば降霊術だ。誰でも気軽に行えるという点では、「こっくりさん」に似ている。用紙を作って十円玉を用意すればすぐできる「こっくりさん」に比べれば、「ひとりかくれんぼ」は準備にかなりの時間を要するが。
まず、手足のあるぬいぐるみに切り込みを入れ、つめものをすべて抜き出す。そして代わりに米と、爪や髪など人体の一部をぬいぐるみに詰める。切り口を長めの赤い糸で縫い合わせ、余った糸は人形に巻き付ける。
これでひとまず準備完了となるわけだが、この「つめものを抜き出す」作業が、思いの外大変だった。綾子が使ったのは体長20cmほどのスヌーピーのぬいぐるみだったが、この作業だけに一時間弱かかってしまった。 綿は引っ張っても引っ張っても、背中の切り込みからずるずると出ててくる。ようやく胴体の中身を出し切った頃には、既に指先が疲れ始めていた。
頭部の綿を抜き出すのが一番大変だった。背中から手を入れて引っ張りだすのだが、首が細いためなかなか思うように出てこない。最終的にははさみを突っ込み、細かく切りながら出した。
空っぽになったスヌーピーに髪の毛と米を詰めていく。ぬいぐるみの容量は綾子の予想よりかなり大きかった。軽く六合は容れたと思う。
背中の切り込みを赤い糸で縫い合わせる。疲れて少々雑になってしまったが、米は漏れないはずだ。
一週間前、パソコンの光だけに照らされた部屋で綾子は某巨大掲示板のオカルト板を閲覧していた。
彼女は、寝付きの悪さから睡眠不足になるのを防ぐため、寝る前にオカルトサイトを見て目を疲れさせてから寝るのが習慣になっていた。一見逆に眠れなくなりそうだが、綾子はまったくといって恐怖を感じないのである。幼い頃から怖い話が大好きでオカルトにも人より詳しいのに、金縛りのひとつすら経験したことのない自分の霊感ゼロっぷりを苦々しく思っていた。そんな綾子だったから、怖い話がひたすら投稿されたスレや、日本各地の心霊スポットに関するスレに読み飽き、そろそろ寝ようかと思いつつ開いたのが「ひとりかくれんぼ」のスレだった。
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