表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水槽  作者: Naomi
1/5

0.事前準備

 一応ジャンルはホラーですが、ホラー要素は呪いに関してのみで、主人公の生い立ちや表面化しにくい程度の虐待問題に重点が置かれています。


 ―何もかも消してやりたい。私の存在を認めたくない。私と関係したすべてをなくしてしまいたい。


 父親の日記を読んでしまったその日から、少女の心は決まっていた。


 ―いつか必ず、私の手で、すべてを断ち切ってみせる。偽物や嘘であるくらいなら、何もない方が良い。両親と同じ様に、こんなシロモノを生み出してしまうであろう私など、早く死んでしまえ。





 綿の代わりに米を詰めたぬいぐるみに針を刺すという行為は、小柄で華奢なその少女にはいささか似つかわしくみえた。日本人離れした整った顔に虚ろな表情を浮かべ、一心不乱に針を突き刺す彼女は、どこか色気を漂わせていた。


 ―48本目。


 少女は肩の力を抜き、ため息をついた。


 ―やっと完成した。


 積み上げられた5つの縫い針のケースに残った針の数は2本。少女の母親の針山に、何年も前からそこにあった、当たり前の存在であるかのように紛れ込むことになるのだろう。

 「当たり前」、とは河野忠弘が頻繁に使う言葉だった。父親の言う「当たり前」が必ずしも「外」で通用するものではないことに綾子が気づいたのは一体いつのことだったのだろうか。ふとしたことがきっかけで訳も分からぬまま家を追い出された日だったかもしれないし、高校の柔道部の兄に本気で殴られた話を綾子が中学のクラスメイトにしたときだったかもしれない。

 とにかく、「昔」と並び「当たり前」は、忠弘の「お気に入りワード」のツー・トップの座を誇っていた(と、同時に綾子の「絶対に使いたくないワード」の上位にも入っていた)。そんな曖昧ではた迷惑な言葉は使いたくない、そう綾子は思っていた。


 ―あとは水槽に沈めて待つだけ。


 オフホワイトの壁紙に、女の子らしい花柄のカーテンや赤い椅子が置かれた部屋の隅。埃っぽい床の上に、凶々しさをたたえた「ぬいぐるみ」が針を鈍く光らせながら横たわっていた。

 読んでくださってありがとうございます。

 感想や誤字などのご指摘など心からお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ