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91 告白

 ……夜明けの光に(かす)む丘の上に、その少女と村上隼人は立っていた。


 ふたりには会話もなかった。ふたりは差し込む(まばゆ)い朝日をただ見つめていた。


 隼人は、少女にふと呟いた。

「赤沼家の惨劇も、もう夜明けを迎えたね……」

「大勢、人が死んだわ……」

「そうだね。重五郎さん、蓮三さん、そして鞠奈さん……」

 少女は、その最後の言葉に少し寂しそうにうつむいた。


「鞠奈は死んでしまったわ……」

「そうだね……でも、君が鞠奈の分も生きればいいじゃないか。赤沼琴音として……」

 その言葉が、少女には耐えられなかった。十五年もの間、ずっと隠してきたことを告白する勇気は、今まで彼女にはなかった。しかしこの時、彼女を突き動かしたのは、愛する人に本当の自分を知ってほしいという苦しみの中の衝動であった。少女は決心したように、隼人の瞳を見つめた。


「隼人さん……わたし、琴音じゃないわ……鞠奈よ……」

 隼人はその言葉に驚いて、まじまじと鞠奈の顔を見つめた。そして……。

「そうか……」

 隼人はゆっくり頷いて、また朝日を静かに見つめた。しばらく、隼人は何と言ってよいか考えているようであった。しばらくして、彼がふと顔を上げて言ったことは、

「早苗さんの恐れていた悪魔の子は、今や、蝶々となって羽ばたいているね……」

 ……と、それだけだった。


 鞠奈には、自分が蝶々のように羽ばたいているとは、到底思えなかった。それでも、鞠奈はその言葉に受け取って静かに頷いた。


 しばらくして、隼人はまた口を開いた。

「本当の君のことを知れて良かった……」

 そして、隼人は微笑んだ……。

「本当の君は鞠奈って言うんだね……」

 隼人は、鞠奈が泣いていることに気づいて、鞠奈を抱き締めた……。


 ……朝日に照らされて(たたず)む、ふたりの姿は美しかった。

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