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74 麗華と英治

 村上隼人との会話を通して得られた複数の事実によって、羽黒祐介の推理はさらに裏付けられることとなった。

 祐介と英治はこの後、車を走らせて、赤沼家の本邸に直行した。麗華、早苗夫人、執事稲山、吟二の四人から事実を聞き出せば、おそらく赤沼家殺人事件の謎は全て解けるだろうと祐介は考えていたのだった。


 祐介と英治は赤沼家の邸宅の前に車を停めた。そして玄関ホールで稲山執事と面会するとすぐに麗華の部屋に案内してもらった。


 麗華は、二階の部屋のベッドの上に座っていた。彼女は切実に姉の琴音に会いたがっていたのだが、それよりも、赤沼琴音犯人説というおぞましい説が赤沼家だけでなく、どうやら警察も信じているらしいという気配を感じ取って、その心配からくる気疲れが積もり積もっているらしかった。とても悪い顔色で、祐介と英治の顔を交互に見る。


「姉は、犯人なのでしょうか……」

 麗華は不安げに尋ねた。

「僕はそうは思いませんが……。今は真実を追及して捜査をするより他にやりようがありません。そのためにも教えていただきたいことがあります。麗華さん。淳一さんの奥さんの由美さんと、蓮三さんは親しかったのでしょうか」

 祐介は自分が事件を推理する上で気になっていることを質問した。


「いえ……。勿論、最低限の親戚付き合いはございましたけれど、由美さんは赤沼家の人間が嫌いで、法事でもないとあまりこっちに顔を出さないんです。それは真衣さんも同じです。蓮兄もずっとお仕事に夢中になっておりまして親戚付き合いが嫌いですから、横浜からなかなか群馬に帰って来ないんです。だから、そんなに親しかったとは思えません。でも、だからと言って、由美さんや真衣さんには、蓮兄を殺すような恨みはなかったと思います……」

 麗華は、とても悩ましげな様子で、親戚を擁護するような発言をした。


「なるほど。分かりました。それと使用人の長谷川瑠美さんという方は、勤められてから今年で何年になりますか」

「長谷川さんですか。あの方が来たのは姉の自殺の後ですから、まだ一年も経っていませんが……」

 一年も経っていないというのでは、この人もあまり詳しいことを知らないのだろう。しかし新しく使用人として勤めた家で、こんな惨劇に巻き込まれるなんて、なんとも可哀想である。


「稲山さんは? 彼はどのくらいになりますか」

「稲山さんはもう十年になります」

 すると稲山は鞠奈の事故の頃は、赤沼家には勤めていなかったことになる。それでは当時、彼は何処で何をしていたのだろうか。

「稲山さんはその前は何をされていたんですか?」

「さあ……、やっぱりどこかのお家の執事だったと思いますけど……」

「そうですか……」

 確かな情報は得られない。しかしそれは稲山本人から聞くことができるだろう。


「でも、稲山は温厚な人間なので、殺人事件を犯すことはないと思います……」

「そうですか……」

 祐介はそんな麗華の言葉はそっと退けで、事件について考えていた。


 英治は、祐介と会話する麗華の顔を横から見ていた。そして麗華もまた祐介と話し終えると英治の方を向いた。麗華の顔は美しかったが不安と悲しみに満ちているように英治には感じられた。ふたりは数秒間見つめあったが、麗華はベッドの上に目を背けた。英治は上手い言葉が見つからなかった。


 ふたりして麗華の部屋から出てきた後も、廊下の先の玄関ホールの吹き付けの階段を降りてくる時も、英治は優しい言葉をかけられなかったことをずっと悔やんでいた。

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