表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/94

61 村上隼人の話

 村上隼人はその後、このような自首に踏み切った理由を根来に静かに喋り始めた。


「刑事さん、僕は琴音が死んでからというもの、あまりの哀しみに魂が抜けたようでした。でも、その事実は認めざるを得なかったのです。だって、琴音の死体は現に見つかっていて、その死に疑いの余地は微塵もなかったのですから。

 ところが僕にはひとつだけ引っかかる記憶がありました。それは琴音と付き合っていた頃のことですが、僕は琴音との会話でたまにつじつまが合わなくなることがあったり、時々、受ける印象がひどく違う時があったのを覚えていたのです。僕はまるで、琴音がたまに別人になっているような気がしてならなかったのです。そのことを不思議に感じて、ずっと覚えていました。その記憶が、琴音が自殺したことを聞いてから、何ヶ月も経った頃に、再び鮮明に蘇ってきたのです。

 時間が経つにつれて、僕は首を吊って死んでいたのは琴音ではなかったのではないか、という疑いを持つようになりました。琴音ではないもうひとりの誰か、です。いつしか、それが僕の願いとなり、そのことを信じるようになりました。しかし、どうしたらそんな不思議なことが起こりうるというのだろうか、と僕は考え込まざるを得ませんでした。その時、思い出したのが、琴音の双子の妹の鞠奈です。鞠奈さんは、琴音にそれはそれはそっくりな双子の妹だったと琴音本人から聞いておりました。そして、その妹は小さい頃、自動車事故で亡くなったと琴音から言っていました。

 僕は一年前に琴音として首を吊っていたのは、実は鞠奈さんなのではないか、と疑うようになりました。その為には、この自動車事故で、鞠奈の死が科学的に証明されていないことを僕は証明しなくてはなりませんでした。そこで僕は鞠奈さんのお兄さんの滝川真司さんが現在どこに住んでいるのか、自分で調査をしました。その結果、京都に住んでいるということが分かりました。はじめ、あの殺人予告状が赤沼家の門に置かれたあの日に、僕は滝川真司さんを探しに京都へ行ったんですが、残念ながら滝川真司さんと会うことはできませんでした。その後、東京に帰ってから、滝川真司さんの住んでいたアパートの大家さんに会って、京都の何という名前の和菓子屋さんか聞きだすことができました。そして、重五郎さんの事件のあった日に、僕はついに滝川真司さんと会うことができました。ところが、やはり鞠奈さんの死が科学的に証明されたものか否か、という点は分かりませんでした。警察に詳しい話を聞いた方がいいと滝川さんに言われて、すぐにそうしようとおもったのですが、翌日、赤沼重五郎さんが殺されたことを新聞で知って、何かただならないことが始まったように感じました。ただ容疑者扱いはされたくないので、この時、警察には行かないことにしました。

 僕には京都でのアリバイがありましたが、それよりも赤沼家の事件が何を意味するのか、それが判断できるまでは自分のアリバイを主張するのは止めにして、警察にも行くまいと決めました。そして誰にも束縛されない、自由の身で調査を続けようと思いました。もしも、琴音が犯人ならば罪を被る覚悟はこの頃から既にありました。その後、警察は僕を疑っているらしく、実家にも刑事が訪ねてきたことを親からの電話で知りました。ただ警察から雲隠れをしながら、栃木の鞠奈さんの自動車事故の現場へ行って、地元の方からあの谷底が人が近づけない危険なところだと知り、死体の確認はされていない、すなわち鞠奈さんの死は科学的には証明されてはいないということをついに知り得たのでした。

 その僕に、友達から連絡があって、赤沼麗華さんからの手紙を預かっているとのことでした。その手紙には、重五郎さんの事件の概要が書かれていました。そして、そこには赤沼家に顔を出すように、とも書かれてありました。僕はこの手紙を通して事件の概要を知る内に、この事件が自分が抱いていた琴音の秘密と密接な関係があるように思えてきました。それどころか、この事件の犯人は琴音なのではないかという直感がいよいよ深まってきたのです。琴音は、双子の妹の鞠奈さんを誰かに殺されています。その復讐をしてしまったのだと思いました。あのバルコニーの鉄柵に吊るされた双子の妹……。僕は、この事件を調べることで、琴音の真実にたどり着けると確信しました。

 そして、僕は赤沼家に訪れて、警察にもアリバイを話しました。またしても自由の身となった僕は、事件の調査を開始しました。その後、事件の現場となった金剛寺の庭を調べていた僕の前に、とある人影が現れました。それは琴音でした。僕はその瞬間に確信をしました。琴音は生きていたと。そして、琴音こそが一連の事件の犯人なのだと……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ