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4 赤沼麗華の部屋で

 赤沼家の次女、麗華(れいか)は今年二十歳になる。東京の大学に通っていて東京の別宅に住んでいるが、今は冬休みということで、このような群馬県の辺鄙なところにある赤沼家の本邸に帰ってきているのである。

 赤沼重五郎は、もともと群馬県で小さな会社を営んでいた。そのために資産家となった今でも、群馬県に本邸を置いているのである。


 麗華は、令嬢らしい可憐なワンピースを着て、二階の自分の部屋のベッドの上に座っている。そして部屋の中には、赤沼早苗が苛々した様子でうろついている。

「それで、お父さん、どうなのよ」

 と麗華は尋ねた。

「知りませんよ。具合悪いと言って、あれから部屋に閉じこもりっきりよ。変に神経質になっていて、稲山しか部屋に入れようとしないのよ。あの人、ついにどうかしたんじゃないかしら」


 早苗夫人は日頃、上品ぶっているが、感情的になると、すぐに化けの皮が剥がれる。こんな時には、非常に下品な口ぶりである。

「お医者さんは呼ばないの?」

「あの人が呼ぶなっていうのよ。もう、なにがなんだかわたしには分からないわ」

「稲山はなんて言ってるのよ」

「何も言ってませんよ。あの人も、変に押し黙っちゃって、一体、何が起こってるんだか、わたしには一切教えてくれないのよ」


「そうね。でも、お正月には、お兄さんたち帰ってくるでしょう。その時、お兄さんたちから、お父さんに事情を聞いてもらったら?」

「お正月まであんな調子だったら、あの人、その頃には死んでますよ」

 早苗夫人は、いかにも腹立たしそうに悪口を言った。

 麗華は少し考えて、やっぱり言わなければならないか、と思い切って、口を開いた。


「お姉ちゃんのことじゃない?」

「何?」

「琴音ちゃんのことじゃないの?」

 早苗夫人は、少しばかり躊躇した。 しかし、早苗夫人は、

「わたしの前であの子の名前を出さないでちょうだい。あの子はわたしとは関係のない人よ」

 早苗夫人は、途端に居心地が悪くなったらしく、用事があると言って、麗華の部屋を出て行った。


 麗華はその後ろ姿を見届けて、そっと呟いた。

「それでも、わたしにとってはやっぱりお姉ちゃんだったわ……」


 そう言って麗華は、自分の部屋の窓に近づく。白いレースのカーテンを開けると、窓ガラスの向こう側には、漆黒に包まれている群馬県の山並みが見えている。

 ……死に絶えてしまったように静かな夜だ。

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