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48 羽黒祐介の疑問

「私がこんな推測をしたのにはある理由がありましてね。もしもこの手紙の指し示す意味が、琴音の死の報いを蓮三が受けた、というものであれば、蓮三は実際に琴音の死に何らかの責任があるということでないとおかしい」

 と根来は語り出したので祐介は頷く。

「そうですね」


「ところが、蓮三は琴音と村上隼人の結婚に関して完全な中立の立場でした。そして結婚に一番反対をしていた淳一はいまだに生きている。どうもこの点がね……。この手紙が本当に琴音の死の復讐を意味しているか、そこからしてどうも疑わしい思えてきたのです……」

「そうですね」

「すると、この殺人はそもそも琴音の自殺の復讐ではないのではないかとも思えてくる……」

「ところが、第一の殺人予告状には明確に琴音さんの死の復讐を意味する内容が記されていましたね」

「そうです、そうなんですよ。だから頭がこんがらがって仕方がないんです……」

 根来は焦ったそうに体を揺すった。


「蓮三さんは第一の殺人の時、横浜にいたのですね?」

「ええ、横浜の中華街の中華料理店に勤めている女性と二人で深夜まで過ごしていたそうです。どうも良い関係だったらしくて……」

 そう言うと根来は鼻のすみをぽりぽりと掻いた。


「すると、やはりアリバイはあるわけですね」

「どうだか、わかりませんよ」

 根来は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「なるほど……。根来さんのおっしゃることは分かりました。それならば、僕は今から横浜と京都に出かけて少し探りを入れてみますよ」

「い、今からですか、しかしわざわざ羽黒さんが行かなくても警察もちゃんと取り調べをしておりますよ」

「いえね、何ごとも自分で調べないと気が済まない性分でしてね……」

 すると祐介はそう言うと、部屋の片隅に積まれている荷物を引き寄せて、早くも荷物の中身をまとめ始めた。


「しかし、羽黒さんが赤沼家の近くにいらっしゃらないのはちと心配ですな……」

「なに、すぐに帰ってきますよ。それにこの民宿に助手の英治を残しておきます」

「彼ですか……いや、それは……」

 頼りない、と言いたかったが根来もさすがに口に出さなかった。


「あれから、早苗さんはどうされました」

「生きながらにして魂が抜けたような……」

「無理もありませんね。自分の息子が殺されたのですから……」

「そうですな……」

 根来は祐介をじっと見据えると、肝心のことを尋ねた。

「羽黒さんはこの事件をどのようにお考えですか」

「私の考えですか。まだ人に話すほどにはまとまっていません」

「そこをひとつ」

 少し困ったように祐介は首を傾げたが、重い口を開いた。


「はっきり言ってまだ混沌として何も掴めていない状況です。強いて言うならば、僕が疑問なのは重五郎さんが生前、稲山さんに言っていたことです。稲山さんにお話を何度かお聞きしましたが、稲山さんが重五郎さんに殺人予告状を見せた時、重五郎さんは「信用できる探偵に相談する」と言っていたそうですね。しかし、このような事態になってもその探偵事務所が未だに名乗りをあげないのはどういうわけでしょう」

「実際には探偵に相談などしなかったというのですか」

 根来は驚いて叫びそうになった。


「そうです。つまり重五郎さんは誰にもあの殺人予告状のことを話さなかったということでしょう。いや何らかの理由があって話せなかったということになります。すると重五郎さんはやはり周囲に明かされてはならない秘密を持っていたということになりますね。そして、あの殺人予告状にはその秘密を暴かれてしまう危険性があった」

「………」

「しかし、そうだとすると、疑問は深まるばかりです。あの殺人予告状の「琴音を殺した赤沼家の人々」という言葉が、琴音さんが村上隼人との結婚が許されなかった為に自殺してしまったことを意味しているのであれば、重五郎さんはあの殺人予告状を、赤沼家の人々に隠さなくても良かったはずです。なぜならそれは赤沼家の人々にとっては周知の事実だからです。もちろん探偵に相談することもできるでしょう。しかし、重五郎さんがこのことをひた隠しにしていたからには、もっと琴音さんの死に関して自分しか知らないような秘密があったはずなのです」


「そうなると、重五郎はあの殺人予告状の内容に心当たりがあったわけですか。しかもそれが重五郎にとっては重大な秘密だったというのですか」

「ええ、だから私は、かつて赤沼家の人々が琴音さんを自殺に追い込んで、それに対して、誰かが赤沼家の人々に復讐をしているのだとは思えません。そうだとしたら、重五郎さんは何もあの殺人予告状をそこまで周囲に隠すことはなかったはずです。それよりももっと殺人予告状の内容通りの、人に言えない出来事が実際に起こったのだと考えるべきではないですか」

 根来はそう言われて、第一の殺人予告状の文面を思い返した。


            *


 赤沼家の人々よ

 琴音は自殺したのではない

 お前たちに殺されたのである

 間もなく一年という月日が過ぎようとしている

 琴音を殺した赤沼家の人々は、わたしの手によって惨殺されることになるだろう

 雪の夜に気をつけろ

                Mの怪人

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