27 事情聴取の終了
その後の事情聴取では、使用人の長谷川瑠美、料理人の井川哲彦、淳一の妻由美、吟二の妻真衣の四人の証言が得られたが、その中に取り立てて重要な情報はなかった。
やはり年越しパーティー中の出来事であったので、みな動きまわっていてアリバイらしいアリバイを持つものはひとりもなかった。また、この四人は、赤沼家の内情に詳しい人間ではなかったので、琴音のことを聞き出そうとしてもみな答えに窮するばかりであった。
こうして、一通りの事情聴取を終えた後、根来は再び稲山を呼び出して、殺人予告状が届いていた事実を赤沼家の人々に伝えることを進言した。そのことが、今後さらなる被害者を出さない為に肝要だと根来は考えたからである。
稲山は、その進言を受けて露骨に嫌そうな顔をした。それもそうだろう。今ここで琴音の死を掘り返せば、淳一と吟二の諍いがまたしても起きるであろうし、Mの怪人というおぞましき殺人鬼の幻影が、赤沼家の人々にどれほどの恐怖を与えるかは想像することもできないのである。
ところが稲山がもっとも恐れたのは、自分の立場であった。このままでは、稲山は、赤沼家の人々が命の危機に晒されていながら殺人予告状の事実をずっと隠していたことになり、これでは重五郎の死の責任は稲山にありなどという話にもなりかねないのであった。
当然、殺人予告状の事実は警察から赤沼家の人々に伝えることとすると根来は稲山に言った。すると幾分、稲山は安心した様子であった。
根来は、事情聴取を終えて、村上隼人と滝川家の人間が、この事件の重要な容疑者であると考えるようになっていた。
琴音と結婚をしようとしていて、赤沼家の人々に断固として反対され、ついに最愛の琴音が自殺してしまった青年、村上隼人。
そして、琴音の実の母親の実家である滝川家の人々。
どちらにしても共通していたのは、琴音の自殺を悲しみ、その責任は赤沼家の人間にあったと考える人々だということである。
これは赤沼琴音の自殺の復讐劇なのだ。そう、根来は自分に言い聞かせた。
「おい、粉河……」
根来は、一先ず現場に戻ろうとするその中途で、粉河に話しかけた。
「村上隼人と滝川家、どちらも怪しいな……」
「そうですね」
「お前はどっちだとおもう……?」
「今の段階では村上隼人ですね。滝川家についてはまだよく知りませんから……」
「それもそうだな。それにMの怪人のMというのは、村上隼人のイニシャルのMだというのが最有力だからな……」
「そうですね……」
久々に粉河と意見が合うなあ、と根来は思った。いつも反対ばかりしてくる生意気な部下である。それが今日は、自分の村上隼人犯人説にこんなにも乗り気である。そんなことを思っていたら、粉河が口を開いた。
「でも、稲山さんが言ったように、犯人が殺人予告状に自分のイニシャルを書いたことは不自然だと感じますね」
「何、お前、まだそのことを言うのか……。いいか、動機は琴音の自殺の復讐だか知らんが、とにかく、やつは銀色の仮面なんてかぶってこの邸宅をほっつき歩くような愉快犯なんだぞ。予告状に自分のイニシャルを書くことなんて、朝飯前だ……」
「ええ、それはそうですけどね……」
不服そうに粉河は言った。まだなにか考えている様子である。
「どうした?」
「愉快犯……本当にそうでしょうか」
「愉快犯じゃなくてどうして銀色の仮面をかぶって現場をほっつき歩くんだ。それに殺人予告状なんて書くんだ」
「なにか他に理由がありそうな気がするんです」
「理由なんてないさ。人並みに論理的な思考ができる人ならはじめから人を殺したりはしない……」
根来はそこで思考をストップさせる。あまり深く考えすぎると頭が痛くなってしまう。
「ただ、まあ理由があるとしたら、それは赤沼家の人々を恐怖のどん底に突き落とすことだろうな……」
根来はそう結論づける。これには粉河も反論しない。
「まあ、いい。さあ、とにかく現場のアトリエへ行こう」
根来はそう言って、裏口の扉を開いた。




