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24 新年を迎える羽黒祐介

 羽黒祐介はその頃、京都のホテルに宿泊していた。銀閣寺の近くにあるビジネスホテルだった。祐介はベッドに腰掛けると、メモ帳を手にこれまで調べたことを考えていた。明日はある人物と会う約束になっている。


(それにしても久しぶりの京都だ……)

 祐介は少しばかりの間、のんびりと観光したい気持ちになっていた。

 探偵には盆も正月もない、と言われているがまさにその通りなのだった。昨日まで祐介は千葉県にいて、滝川家の親戚と面会して詳しい話を聞いていた。その時、町には、もう正月のお節料理のチラシやら門松やら寺社の初詣の宣伝が飛び交い、大晦日を通り越して、正月のお祭り騒ぎがすでに始まっている雰囲気だった。

(こんな時に京都に来ている……)


 正月になると京都では伏見稲荷神社が混雑し盛り上がるらしいが、仕事で来ている祐介に参拝する予定はまったくない。


 窓の外から除夜の鐘の音が聞こえてきている。それはどこか遠くから懐かしい音色となって心に響いてくる。


 その時、東京にいる助手の室生英治から電話による連絡が入った。

「どうした?」

『あっ、祐介。どうする? 東京に戻ってくるか? それとも赤沼家に直行するつもりか?』

 やけに慌てている英治の声である。

「一体どうしたんだ。そんなに慌てて……」

『ニュースを見ていないのか? 大変なことになっているぞ』

「ニュース?」

 祐介はそんなこと言われても知らないものは知らない。何があったのか簡潔に伝えてほしい、と思った。


「ニュースはまだ見ていない。一体何があった?」

『赤沼重五郎が殺されたんだよ。詳しいことはまだ分からないけれど!』

「なんだって……」

 祐介はまさかの急展開になんと言ってよいか分からなかった。


『現場は、群馬県の赤沼家本邸だ。どうする。こうなったら、京都で調査をしているわけにもいないだろう? 明日の朝、新幹線に乗って東京に戻ってきてくれたら東京駅で落ち合って、一緒に群馬県へ行こう……』

「しかし今行ってもまだ初動捜査の最中だろう。捜査会議が立ち上がったタイミングで行くのがいい。それに、この事件の鍵を握っていると思われる人物と明日面会する予定だから、その後の方がいいだろう」

 こういう場合であっても祐介は淡々としている。殺人事件の調査に求められるのはいつだって憤りのような感情ではなく、物事の本質を見誤らない冷静さなのだ。


『それもそうだね。しかし、こちらでなにか出来ることがあればいいのだけれど、何も思いつかなくて落ち着かないんだ。今頃、麗華さんはどんな気持ちでいるか……』

 と英治は、麗華の心配をしている。祐介も英治の気持ちは容易に察することができた。


「まあ、できるだけ早く、こちらでの調査を終えて東京に戻るよ。君はその間、麗華さんにかける言葉でも考えていてくれよ」

『うん……』

 英治が不安なのか、もごもごしている。しばらくして再び英治の声が聞こえてきた。

『祐介……』

「うん?」

『新年明けましておめでとう……』

「えっ」

 祐介が驚いて、ベッドの枕もとにある電子時計の表示を見ると、今は一月一日の零時零分になっていた。


 ずっと窓の外から聞こえてきていた除夜の鐘の音に、人々の歓声が混じったような気がした。新年が訪れたのだ。そう思うと祐介は一瞬、なんと言ったらいいかわからなくなって、しばらくして、

「新年あけましておめでとう……」

 と英治にそっと呟いた……。

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