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20 麗華の気持ち

 次に応接間に呼ばれて、根来に極めて重要な情報を与えてくれたのは、赤沼麗華であった。


 根来は、赤沼麗華が父親の死を受けて混乱したり、放心したりしている様子だと他の刑事からすでに伝えられていたが、この応接間に入ってきた時の彼女の瞳には、再び生気が宿ったように見えた。


 赤沼麗華は、大きく澄んだ瞳の美少女であった。そして、応接間に入ってきた時にはショートカットの黒髪がよく似合っていた。

 その病的とさえ思える、雪のように色白な美しい肌は、彼女の生まれつきの体質によるもので、別に彼女が年中、屋内に引きこもって日焼けを拒んでいるせいではない。根来は一年前にはじめて彼女を見た時に、病弱なお嬢様というような印象を受けた。しかし、それはそもそも完全な間違いで、むしろ麗華は日々活発に外出をしている方である。

 そんな麗華が、物憂げな様子でいる時には、その精神の複雑さとか、純粋さといったものが、切々と感じられてくるほどに美しくなる。それこそ非常に尊いものに思えるのだった。なにか、消えて無くなってしまいそうな危うさが、彼女のどこか奥底から、ひしひしと感じられてくるのだった。


 麗華はしかしこの時、またいつかの溌溂とした美しさを取り戻し、息を吹き返したように根来には感じられた。事件の発生から、幾ばくも時間が経っていないが、それでも、自力で冷静にものを考えられるようになったのではないだろうか、と根来は思った。


「もう大丈夫なのですか?」

「はい……」

「お気の毒ですな、こんなお若いのにお父さんが亡くなられて……」

「ありがとうございます……でも、そんなことはもう関係ありません。それよりも、わたしにも事件の捜査に協力させて下さい……」


「あなたにも……? いえ、一般人が事件の捜査に協力するのは危険ですから……」

「でも、何かしたいんです。ただ黙って見ているわけには……」

「危険です。これは殺人事件なんですよ。お気持ちは分かるが……。それにですね。そのような私的な気持ちは、時として自分本来の意識を狂わせるほどの復讐心となるのです」

「わたしは別に復讐をしたいと言っているわけではありません」

「それでも個人的な感情は憎しみを生み出し、いつかご自身の冷静な判断を狂わせることになるでしょう。だから、我々のような第三者が捜査をしているのです」

「仰りたいことは分かりますわ。でも……」

「私たちを信用してほしいのです」

「………」

「信用して頂けませんか?」

「わたし、刑事さんたちを疑っているわけではありませんわ。ただ、どうしてもじっとしていられないんです……」

「じっとしていて下さい!」

 危なっかしくていけねえや、と根来は内心思っていた。


「わかりました。刑事さんたちがそんな風に言うなら。でも、そうたら私、羽黒さんに相談します……羽黒さんに相談すれば、私に出来ることがなにか少しでも見つかるかもしれません」

「誰ですって……?」

「羽黒さんです」

「そういう名前の方が知り合いにいらっしゃるのですか」

「探偵をされてるんです」

「ああ、探偵ですか」

 明らかに馬鹿にした口調で、根来は言った。


「麗華さん。探偵なんてものはあまり信用せん方が良いですよ。あれはね、浮気調査とかが本業で、殺人事件の捜査なんてせんものですよ……」

「でも、羽黒さんは有名な探偵です。殺人事件もいくつも解かれてるんです……!」

 麗華は、必死に羽黒祐介のことを擁護する。


「ん……」

 根来はその話を聞いておやっと思った。そして、まさかとは思いつつも詳しく聞かざるをえなかった。

「あなたの仰る羽黒さんって、もしかして羽黒祐介探偵のことですか?」

「え? あ、はい……そうです」

「羽黒探偵がこの事件の調査をされているのですか……」

「はい、実は何日か前に東京に行って相談をしてきたんです」

「そうだったんですか……」

 あからさまに根来の態度が変わったのが、麗華は不思議で仕方なかった。


「羽黒さんのこと、ご存知なんですか?」

「ご存知も何も……彼はこの世界じゃ相当な有名人ですよ。何しろ、あの名刑事の羽黒龍三警視の息子さんで、いくつもの未解決事件を解決した名探偵ですからね……」

「そんなすごい人だったんですか……」


「ええ、すでに何か重要な情報を得ているかもしれませんな。近い内に会いに行きましょう。ただ……」

 根来はそう言ってからすかさず、親が子供を叱りつけるように、

「だからと言って、あなたの捜査参加を認めたわけではありませんよッ!」

 と麗華を怒鳴ったのだった。

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