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13 事情聴取始まる

 赤沼麗華は食堂の椅子に座って、呆然とテーブルの上を見つめていた。

 赤沼家の容疑者はこの時、全員食堂に集められていた。そして、間もなく、ひとりひとり順番に応接間に呼び出されて、そこで刑事による事情聴取が行われようとしていた。麗華も、容疑者のひとりである上に、都合の悪いことには死体の第一発見者であったから、警察に犯人と疑われる恐れがあった。

 ただ、麗華には今、そんなことを危惧する精神的な余裕など少しもなかった。麗華は、父親を突然失ったその事実を飲み込めずに、乾いた感情のまま、ただひとりで夢うつつをさまよっていたのである。


 この時、麗華には、赤沼家の人間が父、重五郎を殺害したなどということは微塵も考えられなかった。したがって、麗華の心は、この殺人の犯人は、テレビ出演などをする重五郎の態度を嫌う人間か、重五郎の事業を好ましく思わない人間か、赤沼家の金品を狙う強盗犯か、とにかく外部の人間に違いないという確信に覆われていた。


(そうだ。赤沼家の人の中に人殺しなんていないわ……!)

 麗華はそう思った途端、興奮して立ちあがろうとした。高級な木製の椅子がガタンと音を響かせた。まわりの人間が一斉に麗華を見る。そして麗華はひとり突っ立ったまま、大きく眼を見開いて、テーブルの上を見つめている。わなわなと肩を震わせる。今にも叫び出しそうな勢いである。


「あ、どうされました……」

 刑事のひとりが麗華の元へと駆けてくる。

「ご気分が悪いのですか……?」


 麗華は、しばらくシャンデリアを見つめていたが、刑事の方を向くと、

「犯人は……この中にはいません」

 そう言って動揺する瞳で刑事をまじまじと見つめた。

「い、いえ、それは警察による捜査の後に判断いたしますので、今はどうか落ち着いてください。お水をお持ちしますか?」

「いえ、大丈夫です。わたしには分かっているんです。わたしたちの中に犯人はいません。そんな……、この家にはそんな悪い人はいません……!」


「麗華。そんなこと、本気で思ってるのか?」

 と吟二が長いテーブルの向こう側から鋭い声を投げかけてきた。


 その途端、麗華の脳裏には昨年の琴音の自殺のことが思い浮かんだ。そしてつい数日前の淳一と吟二の口論を思い出した。赤沼家のどろどろとした嫌な部分が脳裏に噴き出してくるように感じられた。


 麗華は苦しくなって両手を顔を覆うと、うわあああと叫び声を上げて、崩れるように椅子に座るとテーブルの上に上半身を突っ伏した。


            *


 さて、まず誰から事情聴取を始めるか。根来刑事は考えた。まず第一発見者の話を聞きたいところだが、次女の麗華はまだショックが大きくて、話を聞くのは難しいだろう。それならば、執事の稲山から始めるか。


「誰から始めますか」

「稲山から」

「執事ですか」

「ああ、あいつは今度のことで、何か知っているかもしれない。重五郎が信頼を寄せる数少ない男だ」

「なるほど、さすが根来さんですね」

「いいから、早く呼べッ!」


 根来は、苛立った様子で爪を噛んだ。まずは、稲山執事から、最近の重五郎の様子と死体発見時の話について聞き出すことだ。それに稲山のアリバイを聞いておく必要もあるだろう。


 さあ、赤沼家殺人事件の事情聴取を始めよう。根来は気を引き締める為に、肩をゆすって、いがらっぽい空咳を吐いた。

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