フィロスの秘密2
「あの、もしかして、ここの宝飾品は持ち出せないのですか?見るだけ、で。」
「その通りであって、そうではない。…持ち出そうと思えば、持ち出せる。」
フィロスが質問の意図を測りかねて、不思議そうな顔をしたが、説明してくれる。
「宝飾品をそのまま持ち出すことはなぜかできない。でも。宝飾品を壊してばらばらにすれば持ち出せる。…持ち出した宝飾品はいつの間にか、また、ここに現れるので、減ることは無い。持ち出した宝石や貴金属はちゃんと手元に持ってこられる。
…たとえば。」
フィロスが私の手を取り、婚約指輪に触れる。
「この指輪に使われているブラックダイヤは、ここから持ち出された1粒のダイヤを2つに割って作られた、と聞いている。」
驚いた。
図書室の本も、もしかしたら、ばらせば持ち出せるのだろうか?
本を破損する行為は私にとって忌むべきことなので、試してみたくもないが。
「あの、でしたら、やはり、このネックレスは公爵がお持ちになるべきです。何か入用なときに宝石があれば助かりますよね?」
「ソフィア。スナイドレー公爵家を侮るな。仮にも4大公爵だ。領地からの収入は多く、王宮からも経費が出ている。君をどんなに贅沢させたとしても、尽きることがない財が、とっくにある。また、代々の公爵がここから持ち出した宝石もたくさん、館には眠っている。…私がここから宝石を持ち出したのは、数回。調合のために必要な石が巷で手に入らなかった時だけだ。」
「だから、ソフィア。君が持っていても、私は何も困らない。…むしろ、君は欲しい宝石があったら、遠慮なく壊して持ってきなさい。この部屋は魔術が使える。壊すのに苦労はない。持ち出した石は公爵家お抱えの宝石商で加工させよう。…ただ、注意するとしたら、国宝になっていたり世界に一つしかないような宝石は持ち出さない方が良い、かな。」
たとえば。
今の国王が戴冠している王冠には、世界に一つしかないと言われる大粒のレッドダイヤがはまっている。そのレッドダイヤがあまりに美しいので、欲しがる貴婦人は多い。
この部屋にその王冠もちゃんとあるので、レッドダイヤを持ち出そうとすれば持ち出せる。
しかし、たとえ、割って小さくして加工したとしても、そのダイヤの色の美しさは変えられないから必ず、それを目にした者達から、どこでそれを探してきたか、詮索が始まるだろう。したがって、そういう宝石はここで見るだけにして持ち出さない方が良いそうだ。
「私がどうしても宝石を必要になったときは、ソフィア、君が私をここに連れてきてくれれば良い。」