主寝室の秘密2
寝室にあった2つの扉。
1つ目の扉はクローゼットルームと浴室がつながっている。
クローゼットルームは空だ。
2つ目の扉は書斎につながっていて、書斎には書き物机と椅子と本棚があり、本棚には10冊程の本が残っていた。
そして、この部屋のみ窓があって、扉もついている。
窓の下には2人掛けのソファ。
書斎の扉を開けると、高い塀に囲まれた内庭になっていた。
小さいけれど、花壇があり、いろいろな色の花が咲いている。
「この塀?」
「塀ではございませんわ。館の壁でございまする。」
「はい?…窓がありません?」
「窓があったら、奥方様が狙われてしまうではござりませぬか。」
グレイスが、あきれたように言う。
「この内庭は館の中にあるのでございまする。でも、館からは見えませんでございまする。だから、内庭があるのを知っているのは、奥方様と公爵様だけ、でございまする。」
「この館は、一見、シンプルなんだが、非常に複雑な造りをしているんだ。図面が残っていないので、私も未だによくわからないところが多い。」
フィロスが補足した。
「夫人の寝室などに窓が無いのも…。」
「侵入を防ぐため、でございまするよ。そして、ある程度の籠城もできるようになっておりましてございまする。クローゼットルームには、隠し扉がございまして。そこに、わたくしめの部屋があり、その奥に、氷室がございまする。氷室には、食糧や水などを保存できまする。今は、何もございませんが。」
フィロスが補足する。
「外への抜け道も、氷室の中にある。」
「抜け道は、館の外の森の中に出るようになっているでございまする。実際に使ったことは、ほとんどございませんでしたが。何しろ、初代公爵はすぐれた軍略家であり、一流の剣士でもありましたから、館に敵を近づけたことがないので、ございまするよ。」
それでも、これほど、用心したのは。
「公爵の弱みがフローラ夫人でございました。敵は真正面から行っても勝てないのがわかっているので、卑怯にも、フローラ夫人を狙ったのでございまする。刺客はもちろん、侍女や従僕にまで手を回し、何度、お命を狙われたことか。」
グレイスはその頃を思い出しているのだろう。口元にやさしい微笑みが浮かんでいる。
「…フローラ様も大魔術師でございましたから、返り討ちにしておられましたけれどもね…。」
初代公爵とその夫人フローラが、なんだか大好きになった。
きっとお二人は、お互いに信頼し、支え合い、守り合い、生きてきたんだろう。