豊富な魔力の秘密
「ところでのぅ、前から聞きたかったのじゃが、ダングレー。そなたの魔力は年齢不相応、かつ規格外に多い。この学院どころか、我が国でもトップクラスの魔力を持っているとわしは思っている。」
「そんなこと…。」
「あるのじゃよ。で、だ。何か、魔力を増やすようなことを、やっておらぬか?知っていたら、教えてほしいのじゃが。」
うーん。と考え込む。
「母に、父がやっていたからやりなさい。と言われた練習はありますが、それが魔力を増やしているかは、わかりません。」
「うん?なぜじゃ?」
「魔力を増やすのではなく、いかに少ない魔力で魔術を使うかの効率化の訓練だからです。」
「ほお。それは、どうやるのじゃな?」
「例えば、炎を手の平に10センチほどの高さで出すとき、その魔力を10とします。」
「うむ。」
「この10センチの炎の大きさはそのままにして、魔力だけを減らしていくんです。最初は、9の魔力で10センチの炎の大きさを保つ。次は、8の魔力で大きさを保つ。これを繰り返して、最後は、1になるまでやります。」
「なんと!」
学院長がびっくりしたように目を見張る。
「この学院に入って教わった授業は魔力を鍛える…、いかに魔力を多く放出して、大きな力を出すか、が主流だと思います。つまり、10の力で10センチの炎を出せたら、次は、11の力で11センチの炎を出す訓練をするみたいな。」
「うむ、言われてみれば、その通りじゃ。」
「母の教えは、そうではなく、魔力1で10センチの炎が出せるなら、魔力10出したら、炎はその10倍。100センチ出せるようになるでしょう?なんです。」
「なんとなあ。…しかし、魔力を減らして減らす前と同じ状態を保つのは非常に難しくないか?」
「難しいです。だから、母に言われたんです。毎日やりなさい。と。毎日やっていたら、そのうちできるようになる。と。」
「その訓練をいつから、やっていたのかね?」
「教えてもらったのは4歳ですが、実は、母と一緒の時は疲れるだけだったので、ほとんどやりませんでした。母に言われた時だけ、渋々、やっていた気がします。でも、5歳になって母が亡くなり、侯爵家に引き取られてからは毎日やってました。」
「なぜじゃ。」
「…やることが無かったからです。」
孤独な子供時代を思い出す。
部屋に閉じ込められ、誰とも会話が無く。
本だけが救いだった、あの頃。
本に読み疲れると、手のひらに炎や、水滴、風を作り出して、母が教えてくれた、小さな力で魔術を行使することに集中した。
私にとって、それが、遊び。
何もなかったあの日々、それしか、遊びようがなかった。
難しい顔をして、学院長が手のひらの上に炎を出現させて、試してみている。
「…できん。」
手のひらの炎をぐしゃっと握りつぶして、学院長が苦笑いをする。
「じゃが、できるようになれば、少ない魔力で大きな魔術が使える。有益な訓練だ、とは思う。」
考え込んでいた学院長が、やがて顔をあげる。
「ダングレー。おそらく、そなたはこの訓練を子供のころからずっとやっていたから、魔力が練り上げられ、結果として、豊富な魔力になった、と、わしは考える。しかし、このやり方は非常に難しいし、誰にでもできるものではない。…とはいえ、わしも少し練習してみようかの。」
こんな年寄でも魔力が増えればうれしいからの。と、学院長は笑顔を見せた。